ナッジ2 ユーザーの行動に繋げる仕掛け(自然にうながす)

楽しい仕掛けがあると、ユーザーはやってしまいたくなる。長所はアイデア次第で少額の投資でも大きな効果が期待できる。場所は飽きやすいので長続きしにくい。 

《仕組みの特徴》

 「仕掛け」は、ユーザーがついやってしまいたくなるよう、ひと工夫を組み込んで行動をうながす方法である。自社が取り扱う商品やサービスに不満や課題が見つかると、マイナスをゼロにすることに意識が向けられがちだが、仕掛けを用いて解決策をユニークに考えると、マイナスをプラスに反転できる。代表例は男性用トイレのハエである。つい当てたくなってしまうというユーザーの心理を利用している。仕掛けの事例は、デフォルト設定に比べて、選択肢がよりユーザー側にあって楽しくなってしまうものが多くみられる。他にもこのような例がある。 

・穴のカタチで捨てるものの種類がわかるゴミ箱

・ピアノに見立てた階段(階段を上がると音が鳴る)

・順番通りに並べたくなる本の背表紙(マンガでよく見られる)

・三角のトイレットペーパー(ガタガタして消費量を抑える)

・不法投棄を抑制する鳥居の設置 

 自然とユーザーにはたらきかけるための方法は、いくつかの研究と実践例がある。プロダクトデザイナーの深沢直人は「WITHOUT THOUGHT」という考えをもとに、自然の行動に即した商品を手掛けている。認知科学者のD.Aノーマンは、適切な行動への知覚可能なサインを意味する「シグニファイア」という概念を提唱している。そして、人口知能の研究者である村松真宏の、つい選びたくなる理由を具体化した」仕掛学」がある。

 3つには、それぞれ異なる特徴もあるが、ここでは「ついやってしまいたくなる」という共通点に着目している。仕掛けで行動をうながすには、アイデアの工夫を具体的なカタチによって変わる。エレベーターの開閉ボタン、減速を意識させる道路の斜線なども同様である。ユーザーにあまり考えさせずに、瞬発的に反応して使ってもらい行動につなげられるアイデアを考えてみよう。

 仕掛けの長所は、先端技術を使わなくても、少額投資で大きな効果が得られる可能性があることである。トイレのハエはシール1枚で済むので、素材開発や掃除代よりも安上がりできれいに使ってもらえる。この長所を活かせるかどうかもアイデア次第だ。一方短所は、いずれ飽きてしまうことだ。どんな面白いものでも、行動を繰り返すうちに魅力を感じなくなる。

 利便性や効率性などスペックの観点で、問題解決を考えようとすると、「つい選びたくなる」というアイデアはなかなか生まれない。仕掛けの理論をまとめた松村真宏の書籍「仕掛学」では、アイデアを考えるときは、事例や類似性を転用することや、子供やユーザーの行動を観察することなどをすすめている。特に子供は、面白いと感じれば飛びついて反応する。穴があったら覗きたいし、ねじがあったら回したくなるもの。頭でっかちに考えこまずに、素直な気持ちを大事にしよう。 

《効果的な理由》 

理由1.娯楽性

 まず何よりも、ユーザーが楽しんで使ってもらえる、という点が仕掛けの特徴である。男性用のトイレのハエも、穴の形に合せたゴミ箱も、積極的に行動したくなるアイデアである。ここは、ゲーミフィケーションの考え方はもちろん、自分で手を加えたくなるDIY効果、相手の存在があると競いたくなるピア効果などが関係する。内発性の動機が大事なので、アンダーマイニング効果に陥らないよう、商品やサービスに報酬の要素を組み入れるときは要注意である。 

理由2.没頭性

 よく考えられた仕掛けは、操作ミスや期待ハズレが少なくなり、ストレスも感じない。さらに、ユーザーが意識せずに使ってくれれば、操作が手間だとも思わない。ポイントは、いつの間にか夢中になって使ってくれることだ。つい触れてみたくなるタッチ効果や、関わるとだんだん楽しくなってくるエンダウドプログレス効果、依存を引き起こさない範囲でのギャンブラーの誤謬などを用いて、ユーザー自身が好きだからやっている、という状態をつくる方法を考えてみよう。 

理由3.倫理意識

 行為をやめる気持ちにさせるときも、仕掛けのテクニックは効果的である。鳥居を置いてゴミなどの不法投棄を抑制するアイデアは、ユーザーの倫理観に訴える代表的な方法だ。ここは、社会規範を意識させる社会的証明や傍観者問題、周囲の目を意識させなれるシミュラクラ現象、自分の行動を正当化させたくなる認知的不協和、既視感があると経験則で判断するようになるヒューリスティックなどが活用できる。