ナッジ2 ユーザーの行動に繋げる-デフォルト(無意識にうながす)

初めから選ばれていると、ユーザーは変えずに選ぶことが多い。デフォルトはユーザーの決断コストを下げる効果がある。初期設定を選ばなくてもよいという選択肢も必ず提供してあげること。 

《仕組みの特徴》

 ナッシュのテクニックで、もっともよく知られている方法が「デフォルト」の設定である。デフォルトは、ゼロから選ぶのではなく、はじめからすでに何かが選ばれている状態にしておくことである。行政の取り組みの例では、臓器提供や個人年金の登録について何も選択しなければ自動で加入することになる、というデフォルト設定をしたところ、加入率が大幅に上がった。対して、加入するなら自分でチェックをつけるという方式では、加入率はかなり低くなった。このように、初期設定をどうするかによって、ユーザーが選択する結果は大きく変化する。デフォルト設定は、他にもいろいろな場面で使われている。 

・新幹線の指定席を選ぶとすでに席が決まっている

・目立つ位置に人気メニューを並べる

・タバコのパッケージに健康の害を伝える

・ネットストアで関連コンテンツが並んでいる

・メルマガ配信にチェックが付いている

  デフォルト設定を用いるうえで、一つ大切なルールがある。それは、選択の自由を保持する、ということである。上にあげた例はいずれも、選択のおすすめはさせているけど、それに従わないという選択もできる。新幹線の席を変更する選択肢もあるし、パッケージに喫煙は悪いと書かれいてもタバコを吸うことはできる。デフォルトで選択されている状況をオプトイン(加入)といい、デフォルトから外れることをオプトアウト(離脱)という。

 このオプトインやオプトアウトを、ユーザーが自由に選択できるようにすることが、デフォルトを設定する上では欠かせない。断りにくい状況をつくったり、退会手続きを複雑にすることなどは、ナッジの考え方に反する。デフォルトの設定に対しては、ユーザーに公平性が担保されていないと反論する人もいる。しかし、そもそも本当の意味で、すべてのユーザーに公平な条件を提示することは不可能である。

 リスト表示であれば、一番初めの項目に注目が集まり、後半の方はあまり注意されない。位置関係や順番、だれが話したか、どんな言葉づかいか、といったあらゆるバイアスに対して、ユーザーは影響を受けてしまう。であればその中で、なるべくユーザーが好ましい選択ができるようにしてあげるべきである。このようにデフォルテは、最も簡単に行動を促すことができるナッジのテクニックである。 

《効果的な理由》 

理由1.暗示と指示

 最初から何かが選ばれていると、ユーザーは「詳しい人がすすめてくれているのだろう」と思ってしまう傾向がある。特に自身が詳しくない分野に対しては、この意識が強くなる。定食屋でおすすめメニューは「お店の人がそういうなら間違いない」と考える。ここには、相手に対する過信が引き起こす権威や、多数派になびくハーディング効果などのバイアスが影響する。ただし、これはユーザーから信頼があることが前提である。疑いがあるとむしろ心理的リアクタンスがはたらいて、ユーザーは提供者側の意図とは逆の行動をとりたくなる。 

理由2.惰性や引き伸ばし

 習慣を変えるのは面倒くさいものだ。使っていないのに解約しないままの状態や、「後でやる」といってそのままにしている人は、少なくないはずだ。人は1日に平均35,000回も意思決定しているらしく、決断する数が多いと疲れてしまう。デフォルト設定は、ユーザーの決断コストを最小にして、負担を感じさせず行動をうながせる、という利点がある。現状を変えたくない正常バイアスや、決めたなら使い切らなければと考えるサンクコストもここに関係する。 

理由3.基準点と損失回避

 あえてデフォルトを外すという選択肢を選ぶと、ユーザーが「今よりも損をするのでは?」という気持ちになる。理由1にもつながることだが、自身が詳しくない状況に対しては、自分の意思を選択すること自体にリスクを感じる。ユーザーは得よりも損の方を強く意識するプロスペクト理論がはたらく。あるいは、自身が何かを選ぶときには選択した責任が伴うので、自信がないときは選択しない方が気楽になる選択のパラドックスも関係する。 

理由4.罪悪感

 ユーザーは、相手の気持ちを感じ取りながら行動する。理由3と同じく、あえてデフォルトを外すという行為は、相手の好意を踏みにじることになる。ここには、お互いさまの関係で成り立っている返報性や、相手を気づかった選択をしてしまう社会的選好や好意も関係する。