ナッジ3 商品やサービスをデザインする-テキスト

 最後にデザインの観点から、商品やサービスに行動経済学を適用することを考えてみる。デザインの専門領域は多岐にわたるが、行動経済学はその領域をまたいで、バイアスやナッジの仕組みを適用することが可能である。最も関与しやすいテキストの表現から、ビジュアルやモノや空間など、さらにはビジネスを検討するときの戦略や心がけまでを、デザインの方法として紹介する。

 テキストは、最も簡単にユーザーに伝える方法の1つであるが、コピーライター、シナリオライターなど、言葉を操る専門家が活躍する領域でもある。プロが手掛けた事例を参考にしながら、伝え方に工夫を加えてみる。最近では、デジタル文化が加速したことで、テキストを読むことへの抵抗も少なくなっている。音声メディアや音声操作も、テキストの使い方の発展系の1つといえるだろう。強く印象に残る言葉を伝えるためには、正しさよりも、記憶に残り気持ちをはたらきかける「粘着性」を意識しよう。 

デザイン1.語りかける

 不特定多数に伝えるよりも、目の前の「あなた」に語りかける言葉づかいをすると、ユーザーはより自分ごと化できるようになる。無機質な言葉をより親密に接する表現に変えて、仲間意識を感じさせるテキストであれば、ユーザーが行動を変えるきっかけを生み出しやすくなる。 

デザイン2.数字を使う

 数字は客観的な情報であるが、伝え方によってはユーザーの主観的な印象を大きく変えることができる。同じような数字でも相対的に見せることで、ポジティブにもネガティブにも見せられるし、数字で損得の気持ちを加速させることもできる。また数字は、文章を読まなくてもパッと見て判断ができるという長所もある。 

デザイン3.端的に打ち出す

 世の中には、多くのすぐれたキャチコピーがある。専門家ではない人が安易に手を出すべきではないが、キャチコピーはビジネスの多くのシーンで活用される。例えば企画書を提案するときに、長々と伝えるよりも、一言で印象に残る言葉を使うことで、受け手の関心を高めることができる。使い方に一工夫加えてみよう。 

デザイン4.クオート(引用)に頼る

 匿名のメッセージではなく、広く知られている人物のメッセージを用いると、説得力は大きくかわる。後世に引き継がれている名言や有名な人が述べた発言は、商品やサービスの価値を高めることができる。ただし、多用しすぎると逆効果なので、ここぞというときに用いてみよう。 

デザイン5.名前をつける

 言葉によって、商品やサービスあるいはユーザー層のカテゴリをつくることができる。例えば「アメカジ」という言葉を多くの人に定着させられると、ファッションやライフスタイルなど、関連する商品やサービスをユーザーに強く呼びかけることができる。定着させるには、印象に残りやすく想起しやすい言葉選びが欠かせない。 

デザイン6.言葉で装飾する

 同じ内容であっても、伝え方によってポジティブにもネガティブにも感じられる工夫ができる。なぜそれがよいかを説明して納得性を高めたり、数字と合わせて魅力的に伝えるなどの方法によって、言葉で装飾すると、ユーザーへの印象を変えることができる。 

デザイン7.「?」と思わせる

 淡々と説明されるよりも、ドキッとさせられたり疑問を投げかけられる方が、ユーザーは興味を持ってくれる。特に最初にインパクトのある投げかけができると、ユーザーをその後議論の土俵に乗せることができる。テキストに抑揚をつけてみよう。