バイアス8 認知的不協和(セルフ洗脳)

気持ちと考えが伴っていないと考えの方を変えてしまう。考えを変えさせるには少ない報酬の方が効果がある。褒めてやる気を出させることには使えるが悪用は禁物。 

《行動の特徴》

 人は自分の考えと行動が逸しないと、不快な状態になる。山口周の書籍「武器による哲学」に、洗脳はこの仕組みが利用されていることが書かれている。カルト宗教や危険な思想を持つ集団は、相手が逃げられない場に人を誘い込み、次の2ステップを行う。 

・集団に好ましいことをしてもらう

・小さな報酬を渡す 

 この単純な仕組みに、認知的不協和が大きく影響を与えている。まず、相手に何か作業をさせる。ここではまだ「自分は無理やりやらされた」という、気持ちの言い訳ができる。ところが。その後に小さな報酬を与えて受け取ってもらう。そうすると、報酬をもらったことへの言い訳はできなくなる。行動も取り消すことはできないので、「一理あるかも」と自分の考えを補正しようとする。これを繰り返すと、相手の要求をいつの間にか受け入れてしまう。実は自分自身でしている「セルフ洗脳」が、認知的不協和のからくりである。

 この小さな報酬というのがミソである。大きな報酬だと「大金のために仕方なくやった」と別の言い訳できるが、小さいと行動したことに対する言い訳がつかなくなってしまう。心理学者であるレオン・フェスティガーは、このことを証明する実験を行った。被験者につまらない作業をさせたのに、次の人には「面白かったよ」と伝えようとする。その半分のグループには少ない報酬を渡して、もう半分は多い報酬を渡した。すると、少ない報酬の方が作業に対する満足度は高かった、という結果になった。

 洗脳には明らかな意図があるけど、実際の社会では、報酬を与えている本人にも自覚がない場合が多くある。あたりの強い上司がたまに飲み物を買ってあげるような状況は要注意である。これは、警察の取調室で恫喝とカツ丼によって容疑者に自白を促すことと同じ構図だ。与える本人の財布はほとんど痛まないのに、実は相手の考えを変えさせる高い効果を得ている。

 ビジネスの応用では、ユーザーが乗り気ではないのに、褒めたり、小さなプレゼントを与えることで、やる気につなげることができる。これも認知的不協和の1つだが、商品やサービスにこの理論を活用しようとすると、ユーザーを操ることになりかねないので注意しよう。 

《活用方法》 

活用1.ギャップ萌え要素を入れる

 背伸びをして慣れない高級レストランを訪れるお客さんにとって、品位を保ちつつ気さくに話しかけてくれるウェイターの接客は、ユーザーの不安を解消する小さな報酬に相当する。敷居が高いと感じさせることに対して、やさしく親しみのあるギャップ萌えの要素を提供することで、ユーザーの行動を気持ちのズレを修正させることができる。 

活用2.褒め続ける

 ついさぼってしまいがちな勉強や、つまらない事務作業、やる気を出して楽しんでもらうために認知的不協和をつかってみてはどうか。本人は「つまらない」「意味がない」と思っても、それに対して「さすが!」「すっごく助かる!」とつたえると、認知が変わるかもしれない。アカウント設定など、面倒と感じる操作に対しては、大げさなくらいほめてみよう。よい意味での、「豚もおだてりゃ気に登る」ための誘導である。 

活用3.返報性で意識を向けさせる

 他社商品が好きな人をターゲットユーザーにする場合、正面から商品価値を訴求するより、何か小さな報酬を先に渡して、返報性を使うことが効果的である。例えばビールだったら、まず1缶渡してその場で飲んだ感想を聞く。もらった手前、悪口は言えないので「美味しい」などの感想を言うはず。すると意図しなかった発言と小さな報酬がセットになり「このビールも悪くないかも」と考えを改めるきっかけになる。これは文字通り、恩を売る=恩返しのきっかけで商品を売る、ということになる。