手で触れると対象物に愛着が生まれる。人と人工物の距離が近づくと購入などの行動につながる。使い方を示唆するデザインとアフォーダンスは異なる。
《行動の特徴》
初代iMacは上部にハンドルが付いていたのをご存知だろうか。実はこれは、デザイナーの強い意図があったのだ。デザインを手がけたのはジョナサン・アイブで、iMac開発当時の有名なストーリーがある。《怖そうなものには、ふつう手を触れない。怖がってハンコに触れない人も多い。だから、持ち手があればつながりができるんじゃないかと思ったんだ。ハンドルなら触れやすい。思わず手に取ってみましょう。触っていいんだよ、という合図になる。それは人への従順さを示しているんだ。》(「ジョナサン・アイブ」リーアンダー・ケイニー著/関美和訳/日経BP/2015)。
今日のように、PCが一般の家庭の中で普通に使われるようになったのは、PCに親しみをデザインしたからである。その特徴が、初代iMacハンドルだ。使ってもらうためには、まず触れてみたくなる見た目で、不安を取り除き親しみを感じてもらうことが必要だった。店頭などで実際に触れることで愛着が生まれ、PCにブレークスルーが起きた。このような、触れることで愛着がわく現象が「タッチ効果」だ。ハードウェアのデザインは、人とPCをつなぐ接点である。
物理的に触れることができるのは、マウスやキーボードや電源コード、そして家に置くときに持ち上げるハンドルだ。これを人とPCをつなぐ接点として捉えてデザインしたことが、初代iMacの注意すべき点である。意図しているかはわからないが、これまでのAppleの新しいカテゴリの商品は、触り心地の良さを意識した形になっている。iMacのマウス、PCのアダプター、初代iPhone、Apple Watchなどだ。
アフォーダンスという、人と環境の関係性を示す概念がある。本来は、環境が生物に与えている意味や価値という定義である。ところがこの言葉は、使い方を示唆するためにカタチや表示をデザインすることという、誤った意味合いで多くのデザイナーに認識されている。アフォーダンスは使い方の範囲に留まらず、関係性をデザインすることを意味する。iMacは、単に操作を誘導するためのカタチではなく、ユーザーと人工物の関係性を考え直したことが、アフォーダンスの観点で優れている。
ユーザーとの接点を持っていないなら、触れるという原始的な体験を通して、人工物に対しての愛着を持たせることが、デザイナーの役目だ。ちなみにアフォーダンスの定義では、接点のことをSurfaceという。初代iMacから20年後、Microsoftが「Surface」という名のハードウェア接点をつくろうとしたことは、この接点から考えると興味深い。
《活用方法》
活用1.使う前に手に取ってもらう
お店で服を眺める時や、スーパーで果物を選ぶとき、無意識で商品を手に取ってみる人は多いはず。アフォーダンスの考え方に照らし合わせると、これは自分との距離を近づけるための行動だといえる。物理的なものがある場合は、ショーケースに閉じ込めるのではなく、一部のサンプルなどをなるべく手に触れられるようにすると、ユーザーが興味を持ち購入しようと考える後押しにつなげられる。
活用2.一貫したキャラクターにする
日本ではもはや常套手段だが、パッケージなどにキャラクターを付けることで親しみを訴求する方法は、多くの商品やサービスで用いられるいる。ただし、キャラクターと商品のイメージが分離していると、親しみの効果ははたらかない。例えば、サイトの入口ページはかわいいのに、申し込みページに入ると内容も言葉遣いも一気に固くなるウェブサイトは、キャラクターの効果を活かしきれていない。ユーザーが触れられる範囲は、最初から最後まで一貫させることが大切である。
活用3.怖さをなくす
ユーザーが怖いと感じる商品やサービスは、世の中にまだまだ多く存在する。複雑なメカ、難解な理論、威圧的なビジネスなど、みんなが仕方ない、と思っている領域にこそチャンスがある。「怖くないよ」「大丈夫だよ」と伝えられる要素を探り、初代iMacのようなブレイクスルーを目指すてみよう。
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