人は保守的な心と強い好奇心が共存している。先進的でもどこか馴染の要素あると受け入れやすくなる。先進さと馴染は1つの商品やサービスで両立できる。
《行動の特徴》
レイモンド・ローウィを知っているだろうか。戦後のアメリカで、ラッキーストライクのパッケージ、流線型の車や冷蔵庫などで、商業的に大きな成功を収めた20世紀のデザイナーである。レイモンド・ローウィは、自分の著書『口紅から機関車まで』で、MAYA理論を紹介している。MAYAとはMost Advanced Acceptableの略、つまり「最先端だけど、まあ受け入れられる」という意味である。人は保守的な心と強い好奇心が共存するが、対立する両者を1つの商品やサービスに体現できると、人々の高い注目を集める効果がある。この2つについて、それを整理してみる。
まず、Advanced=先進さについてである。ちょっとした驚きや、予想できない状況で何かがわかった瞬間、人は高い満足感が得られる。例えば、ゲームをするときは、ちょっと難しいけれど頑張ればクリアできて、次のステージに進めたくなり、未知なものへの好奇心が高まる。Advancedは、人はちっと先のことに高い関心を持つ心理を突いて、ユーザーを飽きさせない効果がある。
次に、Acceptable=馴染について。同じ名前をたくさん聞いたり、何回も同じ人に会うほど、その人やものに馴染んで好感度が高くなる。この現象をサイアンス効果という。わかりやすい例は、社名や商品名を連呼する宣伝広告や、有権者に会って握手する政治家などである。馴染に対してユーザーは、たまたま出会っただけで実は内容を知らないのに、なんとなく信用して支持してしまうようになる。ただし一方で、馴染みすぎると飽きてしまうことにもなり得る。
MAYA理論はこの「先進さ」と「馴染み」を組み合わせて、「人は驚きを与えられたい一方で、心地よさを望む」というユーザーの心理を刺激する。先進的すぎると不安を抱くけど馴染みすぎると飽きてしまう、という絶妙なバランスで成り立っている。レイモンド・ローウィはこれを、工業製品や商品パッケージのデザインに適用して、ユーザーの心をつかんだ。1950年代の出来事だが、ヒットを生み出すヒントがこのMAYA理論を実践から学べる。そして50年後にこのMAYA理論を実践したのはスティーブ・ジョブスだった。iPhoneの発表のときに、このことがよく表われているので、活用方法で具体例をくわしく見てみよう。
《活用方法》
活用1.簡単な言葉を使う
2007年、iPhoneの発表でのプレゼンテーションでは「iPod+Phone+Internet」と伝えている。当時、スマートフォンによるモバイル社会はまだ誰も想像できなかったので、iPhoneの存在はMost AdvancedであってもNot Acceptableだった。それをYet Acceptableにしたのは「3つの存在の機能が一緒になった」という、馴染みがあるものを新しいものとして位置づけるシンプルなメッセージだった。
活用2.新旧を組み合わせる
iPhoneの発表は、デバイスが革新的であるのに対して、デモで操作をするときに紹介した曲はビートルズやボブ・ディランなど多くの人に馴染みのあるアーティストのものだった。アイコンも当時は、紙のノートなどのモチーフを用いた表現だった。ヒットしているものの多くは、このような馴染みのあるモチーフを使っている。例えばスターウォーズは、宇宙を舞台にした先進的な世界である一方で、正義と悪という古典的なテーマをストーリーに用いているし、任天堂が新しいゲーム機を発表するときは、マリオなどの定番キャラクターを一緒に出している。
活用3.体感してもらう
新しいものは、口頭の説明だけでは十分に伝わらない。論より証拠で、デモを見せて体験してもらう方が伝わる。iPhoneの発表でも、理論はそこそこに、実際に使用風景を見てもらったり、店頭で使ってもらうことで、新しい世界が遠い未来ではなく近くにあるものだということを、訴求してしていた。
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