人は後付けで自分の行動を正当化する。つじつま合わせは個人でも組織でも起こりうる。回想バイアスに対する問題は意識ではなく仕組みで解決すべき。
《行動の特徴》
人はおおむね、倫理性を自覚して行動する。ですが、たまに自分でも気付かずに、非倫理的な行動をしている場合がある。倫理性と社会性が交わると複雑になる理由は、マックス・H・ベイザーマンと、アン・E・テンプランセルによる書籍「倫理の死角なぜ人と企業は判断を誤るのか」の中で詳しく書かれている。倫理性が簡単ではないことを象徴する、トロッコ問題と陸橋のジレンマという、有名な思考実験がある。どちらも、線路の上に立っている5人はトロッコが迫っている状況に気づいていないというときに、貴方はどのような判断をするべきかを問うものである。
トロッコ問題では、途中で線路が2つに分かれておりポイントを切り替えすることができる。何もしないと、線路の先にいる5人がトロッコに轢かれる。線路のポイントを切り替えると、切り替え先のレールにいる別の1人は死ぬけど、その代わりに5人は助かる。この場合は、どちらを選んでも倫理的な理由を述べることができる。陸橋のジレンマは、路線は1本だがトロッコのレールの上に陸橋があり、陸橋にはもう1人いる。
何もしないと、線路の先にいる5人がトロッコに轢かれる。もう1人を陸橋から突き落とすと、落ちた1人は死ぬけれど5人は助かる。この場合、人を落とす選択をした人は少ないはず。なぜなら殺人だからだ。トロッコ問題も橋脚のジレンマも、選択することによる2つの結果は変わらないが、それぞれ倫理的に説明しようとすると、異なる理由を述べるようになる。
思っていたことと、実際に取る行動が食い違うことは、よくあるある。ただし、違っていたからと言って、自分が間違っていたと考えを改めることはほとんどなく、その行動を正当化してしまう。このプロセスを、事前・最中・事後の3ステップで整理すると次のようになる。行動する前は、倫理観に基づいて毅然とした態度をとろうと考える。しかし、実際に行動を起こすときは、状況に流されて事前の考えと違う行動を取ることがある。
行動した後は、結果を起点に事前に考えていたことを修正する、つじつま合わせを行う。ここに「回想バイアス」が関係する。つじつま合わせの正当化は、個人の領域にも、組織や社会といった大きな領域にも、どちらも起きる。個人の例では、募金する意思があると回答した人に対して、当日に募金した人は約半数になった。募金しなかった人は、その日お金がなかったなど理由を正当化する。組織の例では、チャレンジャー号の爆発事故が挙げられる。
開発会社は部品の不具合が確認されたので、一度打ち上げ延期を提案したものの、NASAの機嫌を損なうために、開発会社のマネージャーたちは、決行を正当化するデータを集めることに躍起になり、打ち上げ反対を押し切った。この結果、悲劇的な事故が起こってしまった。組織の倫理観が欠如するのは、次のような原理も影響する。
・非公開:他人が見ていないと、手抜きや虚偽報告をする
・間接性:関係者が複数になると責任の所在が不明確になる
・茹でカエル:段階的に行うといつの間にか閾値を超えてしまう
・結果偏重:結果オーライと考えてモラルが問題視されなくなる
組織レベルでの倫理に反した行動は、例えばエンロンの不正会計や、サプライムローンなどがある。日本でも優良といわれていた企業が近年、不正会計や詐欺まがいの金融商品を売りつけるなど、信じられない事件が多発している。ですが、これらを個人のモラルに言及しても解決されない。組織で起きる倫理問題は、個人の意識に対する教育ではなく仕組みで解決させるべきである。このように、倫理観は自分の心がけだけではコントロールできない、ということが理解できたはずだと思う。
《活用方法》
活用1.事前に宣言させる
話していたことと、実際の行動が変わらないために、相手が行動する前に宣言させてみよう。これはバイアス6で出てくる一貫性の効果が機能する。人は、一度話したことに対しては、一貫したストーリーを保とうとするので、その場次第での変更がしにくくなる。例えば入力フォームでは、最初に自分の意思を提示する場を設けると、その後の回答は実態とのズレが抑えられるようになる。
活用2.最中に視線を入れる
倫理観を考えていても、いざ行動すると現場の空気に流されそうなときは、その先を想起させる仕掛けが効果的である。ここで活用できるのは、現在バイパスの応用である。例えば、後で母親にいう、上司に報告する、ということをユーザーが常に意識できるように視覚的に表示させると、場に流されず毅然として態度を保つよう意識の働きかけができる。あるいは、誰かが見ているという環境を作れば、越脱したい気持ちの抑制がかけられる。ここにはバイアス1で紹介したシミュラクラ現象などが活用される。
活用3.事後に客観評価の仕組みを入れる
チェック機能を、身内ではなく第三者評価を入れて、公開を前提にするルールを用いることなどで、つじつま合わせの言い訳を抑えることができる。客観的に評価できることがポイントなので、コンピュータや自動化された仕組みを活用し、なるべく人に依存しない仕組みを取り入れよう。
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