バイアス3 正常性バイアス(変化がキライ)

過去・現在・未来を同一線上で考えてしまう傾向がある。多くの人は本能的に変化を拒み、兆しがあっても変化に対応しない。変化を起こしたいときは明確に強く打ち出す必要がある。 

《行動の特徴》

 現状を変えたくない思考のことを、「正常性バイアス」や「現状維持バイアス」という。これまでに、映画館や地下鉄など密閉された空間での火災や地震が起こったときなど、災害発生に警告があったにも関わらず、すぐに行動に移さなかった結果、多くの悲劇を招いた事故が数多く起こっている。人はある範囲までは、異常があっても正常な範囲内として対処する、といった思考がはたららく。こう考える背景には、日々の微細な変化にいちいち反応していたら疲れてしまうので、人の心はある程度、鈍感にできているのだそうだ。正常性バイアスのおかげで日々の生活が快適に過ごせる分、非常時の対応は遅れる。

 変化が起きても行動に移るのは、いくつかの原因がある。1つめの理由は、すぐ自分事には受け止めないことである。1回目の地震が起きたとき、多くの人はその場にとどまるが、2回目がくると平常時とは違うことを自覚させられ行動を起こすようになる。2つめの理由は、自信過剰に陥りがちなことだ。1回目の津波が小さめだと「大丈夫だろう」と考えてしまい、次に来る大きな津波を軽視してしまう。

 3つ目の理由は、権威に従って視野狭窄や思考停止になることである。飛行機の機長の指示は絶対と考えてしまうと、副操縦士は目の前に起こっている異常に気付かなくなる。現在バイアスと正常バイアスは少し似ているので、違いについて整理しておく。現在バイアスは、現在を起点に目先の利益を優先してしまうことで、長期的な計画では将来性を重視するけど、短期的な計画では目先の利益を優先する傾向がある。

 対して、正常バイアス(現状維持バイアス)は、過去→現在→未来が同一線上にあると考え、現状に対する変化を拒むことを意味する。変化に対応できるかどうかが正常バイアスに強く関係する。正常バイアスのリスクは災害だけでなく、ビジネスでも変化を拒んだ(又は気付かない)ことで、時代に取り残された会社やサービスは多い。これは特に、近年の日本の大企業の多くが抱える問題である。新しい競合が現れたときは、これまでの延長線上とは違うながれということを自覚する必要がある。

 ちなみに、映画ではよく、警告に対して人々が慌てて逃げて、パニックになるシーンが描かれるが、実際は「災害に巻き込まれても、人はパニックならない」ということだ。ジャーナリストのアマンダ・リプリーによる書籍「生き残る判断 生き残れない行動」によると、9.11のときでも生存者は「誰もがとても落ち着いていた」といい、避難者は物静かで従順になっていたそうだ。非常時には、パニックを恐れずはっきりと警告して、正常バイアスを壊すことに意識を傾けることが大切である。

 《活用方法》

 活用1.端的に強く明確に示す

 曖昧なメッセージだと人は動かない。1977年に起こった、ビバリーヒルズ。サバ―クラブの火災では「ボヤが発生した。ここからだいぶ離れているが、すぐに避難してください」と警告でした。この結果、人々はなかなか非難を始めず、164人が逃げ遅れた。曖昧な情報提供は、むしろ正常バイアスを補強させることになりかねない。変化を促すときは、次のような言葉遣いを意識しよう。 

・端的か(遠まわしではなくわかりやすい)

・強いか(ハットさせられる)

・明確か(具体的に何をすればいいかがわかる) 

活用2.一瞬でわかるようにする

 警告をしても、周囲の環境が変わっていないと行動にまではつながらない。例えば、室内であれば照明を切り替えてしまうなど、視覚的に明らかに変わることを示す必要がある。資格外でも、音や温度など五感に訴える表現も効果的である。携帯電話で鳴る緊急地震速報のサウンドデザインも、明らかに平常時と違うことを警告する意図があり、それまでの雰囲気を断ち切ることができるようになる。 

活用3.賛同する

 皆の行動を変えるには、最初のフォロワーが大事だ。バイアス2のバンドワゴン効果でも説明した、TED TalKの「社会運動はどうやって起こすか」のプレゼンテーションは、このことを端的に示している。1人だけでは変わり者に見られるが、勇気あるフォロワーが付くことで、全体への変化が起きる。商品やサービスを提供する場面でも、フォロワーが手を上げやすい場の提供や、フォロワーの行動が他の人にも見える仕組みをつくると、ムーブメントにつなげることができる。