経験則や常識を持つと近道思考ですぐ結論づけようとする。近道思考は時間や労力がかからない利点がある。一方で偏見や盲点の落とし穴に気づかない欠点がある。
《行動の特徴》
ことわざの「石橋をたたいて渡る」は、ヒューリスティクを回遊する方法を良く表している。ヒューリステック(Heuristic)の語源は、探し出したり発見するのに役立つ、といった意味合いのギリシャ語である。行動経済学では、経験則によってある程度答えを直感的に発見できる方法のことを意味する。ヒューリスティクの長所は、短時間で労力をかけずに実施できることだ。一方で短所は、ヌケ、モレや思い込みなどの落とし穴に気づきにくい、ということが挙げられる。よく知られた例に「リンダ問題」というものがある。次のふろーを読んでみると、AとBのどちらが当てはまるかを考えてみて見よう。
《リンダは31歳、独身で社交的かつ聡明な女性である。大学では哲学を専攻し差別や社会正義などの問題に関心を持ち、反核運動のデモに参加していた。A.リンダは銀行員だ B.リンダはフェミニズム運動に参加している銀行員だ》(『ファスト&スローあなたの意思はどのように決まるか?上』ダニエル・カーネマン著/村井章子訳/早川書房/2012)。
リンダは反核運動に参加はしていても、フェミニズム活動をした事実はない。ところが、人は勝手に2つを思い込みで結びつけて考えてしまい、多くの人はBの方を選ぶ。このように、ヒューリスティクは素早く判断できる一方で、分析的な視点を見落としてしまうことがある。人は日常的に、ヒヒューリスッィクを使う。例えば、橋を渡るときは崩れない」と思い込みを持って歩く。本当に橋が崩れない保証はないけれど、渡るときに毎回いちいち検証していたら、生活が成り立たない。
このように、常識を疑うとすごく時間と労力がかかってしまう。機械ならどんな小さなエラーでも見つけて処理をとめるが、人はそういったことを無意識に排除してしまう。ヒューリステッィクは他にも、不安な気持ちのときには坂道がいつもより急に見える、少ないものが欲しいものだと感知がしてしまう、自分中心に物事を考えてしまうなど多くの種類があり、他の行動経済学の理論の土台になっている考え方である。
ヒューリスッィクは、日本語だと「近道思考」といういい方がしっくり当てはまる。そして、経験則が必要とされるときには近道思考を積極的に使ったり、反対に見落としを無くしたいときには近道思考を意識的に取り除いたり、状況に応じた使い分けができると、商品やサービスの企画・開発に役立つ。
《活用方法》
活用1.新しいものほど慣れ要素を入れる
見たことのない新しい製品・サービス・仕組みは、これまでの経験則が通じないので、ユーザーははじめ使い方に戸惑う。ここにヒューリステッィクを活用できる。iPhoneが登場した時の初期画面や操作は、経験則でわかるデザインになっていた。例えば、ボタンやアイコンは従来の表現となるべく合わせたり(虫メガネが検索のアイコンになっているなど)、操作手順がこれまでのApple製品と共通しているなどだ。新しいものほど、これまでの経験則が活かせるユーザーインターフェイスが有効なのだ。
活用2.素人思考とプロ思考の切り替えを意識する
大胆なアイデアを考えるときは、ヒューリステッィクが邪魔になる。経験則を常識で「こうだろう」と判断してしまうからだ。なのでこのような場合は、常識的に素人になって常識を疑ってみよう。あるいは、自分と違う専門や考え方を持つ人をチームに加えることで、多様性によって経験則と常識を外すようにして見よう。一方、開発段階ではヒューリスティックを活用することで、経験則に基づいて効率的に品質を高めことができる。状況に応じて、素人思考とプロ思考を使い分けよう。
活用3.ありのままにリサーチする
世界的に活躍しているビヤルケ・インゲルスが率いる建築事務所のBIGは、設計予定の現地を訪れてリサーチするとき、無理な意味づけをしないことを重視している。現地を歩いて人と話して、周囲を歩くことは感じられる気付きを得て、その設計案につなげる。ヒューリステッィクによる思い込みで結論付けてしまうと、普段気付かないような見落としがあったり、経験則で考えてしまうので、他と同じような解決策になりがちだ。この時に行われるリサーチは正解を検証するものではなく、ヒントを発見するためのものだ。ありのままに取り入れるような態度や心構えが必要だ。
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