集団の中では、人は自主的な行動を取らずに他人に頼る。相手の顔が見えていると気づかい、見えていないと自分勝手になる。物理的・心理的距離感によって社会的関係性は変わる。
《行動の特徴》
1964年、ニューヨーク州で起きた事件で、嫌な記事が掲載された。それは「38人の目撃者は、殺人者が3度にわたって凶行を繰り返すのを、誰1人として警察に通報しなかった」というものだ。社会心理学によると「悲惨な事件の目撃者がいる場合、目撃者たちはその悲劇に関わろうとしなくなる傾向がある」ということだ。このことを「傍観者問題」という。仕事や試験などでミスを防ぐためのトリプルチェックは、実はダブルチェックに比べて、同等かむしろ品質が下がる可能性がある。」
1人に比べて複数人が関わると、責任意識が弱くなってしまいがちである。他にも、意思決定をみんなで行おうとすると無難な結論になりがちで、決定の質が落ちる集団浅慮に陥ることがある。これらはいずれも、1人が主体的ではない傍観者の立場の立場が影響している。傍観者が当事者意識を持たない背景は3つある。1つ目は、他人の目がないと身勝手な考えをするからだ。2つ目は、相手との距離が遠いからだ。3つ目は、相手を特定ではなく匿名の人物と認識してしまうからである。
バイアス1で紹介した社会的選好の中で、独裁者ゲームの例を紹介した。人は相手がいると、お金を独占せず相手にいくらかを渡す傾向がみられる。この裏返しとして、実は相手が見えていないなければ、人はズルをしたり自分のエゴが強くなるということも明らかになっている。対して、周囲の目が気になる環境にいる場合は、社会的な行動をするようになる。行動経済学者のダン・アリエリーは「顔のある犠牲者効果」という実験で、1人の顔が見えているかどうかで寄付金は変わると述べている。周囲の目は、顔がなくてもパトカーや監視カメラなどには同様の効果がある。
相手との物理的な距離も、傍観者問題には大きく関係する。目の前で揉めごとが起こって、目が合ってしまったら助けようと考えて行動する意識がはたらく。でも、当事者との距離がちょっと離れていたら、面倒なことに巻き込まれたくないと思い、なるべく近づかないようにするはずだ。さらに、だいぶ離れていて他にも多くの人がいたら、誰かが対処してくれるはずと考えるようになる。
相手がだれかによってユーザーの行動は変わる。例えば相手が知り合いだったり、聞いたことのある名前だったら、何か行動しょうと考えるはず。でも、会ったこともない人や自分と生活文化圏がまったく違う人だと、関与の度合いは低くなる。このような心理的な郷里によっても、行動は変わってくる。もし、ユーザーが商品やサービスに対して積極的に関与していない状態であれば、傍観者の立場である可能性が高いはずである。ソーシャルディスタンスという言葉が広く認知されるようになったが、ユーザーが当事者意識を持って行動につなげるためには、どうすれば心理的なソーシャルディスタンスの距離感を縮められるかを意識してみよう。
《活用方法》
活用1.名指しして語りかける
相手を特定することで、距離を縮められる効果ある。ベテランの販売員は「そこの帽子をかぶったお客様」など、個人を特定できるように語りかけることで、商品に目を向けてもらう機会をつくっている。ホテルのエントランスやウェブサイトなどでも「○○さん、こんにちは」という語りかけをする場面が見られる。特にデジタルでユーザーのデータを活用すると、全員ではなく1人に向けた細かな施策ができるようになる。ユーザーの関心がいまひとつで傍観者的な立場を取っているときは、One to Oneのコミュニケーションを意識してしみよう。
活用2.周囲の目を使う
人は周囲の目があれば社会的にふるまい、奇異な行動はしなくなる。反対に周囲の目がなければ、良くも悪くも自分に正直な行動をする。この2つを使い分けると、ユーザーに対して適切な関与度合いを調節することができる。例えば、多くの人が見るSNSや公共空間では、他人の目を感じられる要素を入れて、個人間のやり取りの場面では、自分の部屋にいて誰かの目を気にしなくてもいいような場にする、こういった表現の使い分けができる。
活用3.カジュアルに接する
ある程度ユーザーとの関係性が築けたら、友達や家族と話すような言葉を使うと、相手との距離をぐっと縮めることができる。例えば、方言を用いたり、相手がよく使う言葉を真似て使うと、自分との仲間意識を想起させることができる。初対面のときに自己紹介で自分を相手に知ってもらう方法も、匿名の誰かからある1人と認識を変えて、親しみを持つってもらえる効果がある。
コメント