コーチングに必要なスキル

コーチングに必要なスキル》

 それではコーチングを実施するにあたってはどのようなスキルが必要なのだろうか。コーチングは前述のように、コミュニケーション・スキルということができる。そのため、コーチングでのコミュニケーションを通して相手の価値観や考え方を理解するため、「聴く」スキルや「質問」のスキル、「承認」のスキルが求められている。これらの「聴く」スキルや「質問」のスキル、「承認」のスキルを身につければ、それでコーチングができるかというと、それほど簡単なものではない。

 コーチングを実施するにあたっては、クライアントとの間に信頼関係を構築しなければならない。コーチングの対象者との信頼関係が構築されない限りは、どれほどコーチングのスキルを駆使しても、クライアントは正直な気持ちや本当の状況を語ってはくれないだろう。クライアントとの信頼関係を築くためには、自分以外のメンバーの目標達成について関心を持ち、彼らが目標を達成するためにどのように支援し、どのように力を貸していくのかを真摯に考えるという姿勢、「マインド」を持つことが大切なのである。

 それではコーチングの代表的な流れを見てみよう。代表的な流れは「RGOWモデル」と呼ばれている。「GROW」はGoal(目標設定)、Reality(現状の明確化)、Option(行動計画の作成)、Will(意欲の喚起)の頭文字をとったもので、基本的にG→R→O→W→の順でコーチングのステップを進めていく。まず最初に目標を設定する。業務上の目標であれ、メンバーが望む状態を目標として設定ることによって、主体的に取り組む姿勢を引き出す。

 次のステップとして現状を明確にする。現在の状況が理想とする状況と比べてどのくらい隔たっているのか、またはどのくらい近いのかを明らかにすることによって、目標の達成や問題解決において何が重要なのか、どのような行動計画が必要なのかを把握することができる。次に実際の状況とのギャップから導き出された、問題解決のために必要な行動計画を設定し、実際の行動計画に移していくための意欲を引き出すようにしていく。しかし、この基本的なGROWモデルのコーチングの流れが、必ずしもこの通りに進むとは限らい。

 コミュニケーションを取る中で、話しの脱線や混同が起きたとしても、会話の自然な流れの中で生じたものであれば、その流れを妨げるべきではない。自然の流れに任せて会話を進めながら、GROWモデルの各ステップで明確にすべきポイントに注意して、相手の話に耳を傾けることが大切である。以上コーチングについて説明してきたが、コーチングとは目標達成のために、相手の話に耳を傾けながら自主性や主体性を引き出し、相手や自らの変化を促していくコミュニケーション・スキルである。

 単に部下とのコミュニケーションのスタイルを指示・命令中心から質問中心のものに変えていくというだけではなく、組織や個人の目標を達成するためのものであることをよく理解しておくべきである。コミュニケーションを円滑にしていくためには、相手との信頼関係を構築することが大切である。コーチングの対象となるメンバーとの信頼関係を築き、何でも話せる環境を作ることが、コーチングが機能するための前提となる。