コーチング

《コーチングとは》

 近年、日本企業でもコーチングが取り入れられるようになっているが、コーチングとはいったいどのようなものなのだろうか。コーチングとは、コーチ役(例えば上司)とコーチングの対象者(例えば部下)との間で対話を重ねることを通じて、コーチングの対象者が目標の達成のために必要なスキルや知識、考え方を身につけ、行動することを支援し、成果を出させるプロセスと定義される。

 つまり、コーチングは具体的にスキルや知識などの何かを教える「ティーチング」とは異なるものであ。コーチングのプロセスにおいて重要な考え方として、「すべての答えはクライアント(コーチングの対象者)の中にあり、コーチングでクライアントとの対話を通じてその答えを引き出して、目標達成に導いていく」という点がある。コーチングはあくまでもコミュニケーションのスキルであり、そのスキルは上記の考え方に集約されているということができる。

 近年の組織リーダーには、組織の目標達成に向けて単なる管理者に徹するのではなく、コーチングを通じて部下を自律的、主体的人材に育成していく役割も求められるようになっているのだ。 

《コーチングの導入目的》

 企業はどのような目的でコーチングを導入しているのだろうか。それは次の2点({行動の変容を促す}「変容の適応力向上」)である。 

1) 行動の変容を促す

 コーチングは単に目標の達成に向けてメンバーを叱咤激励したり、議論したりするためだけのものではない。その目的の1つとして、環境等の変化に対応するためにコーチング対象者の「行動の変容」を促すことにある。企業の多くは現在、グローバル規模での競争激化や技術革新等、予測困難な変化に直面している。その中でリーダーや管理者は、常に組織を前進させて成長させていくというミッションを持っている。

 「現状のやり方を維持していけばいい」と思っているようでは、周囲の急激な変化に取り残されてしまい、現状を維持したつもりであっても、自分たち以外の企業組織が変化に対応していれば、結果的に大きく後退してしまっているのと同じことになってしまうのである。そのためにも、コーチングを通じてメンバー一人ひとりの行動に変化を促し、ひいては組織全体の変化(進化)を起こしていくことが求められる。

 メンバー個人が成長していく上では、周囲の変化に対応すると同時に自ら変化を起こしていく姿勢が求められる。このような状況においてコーチングは、理想を目標とする状況と現実との溝を埋めるために、単なる口約束では終わらせずに、様々なツールや手法を活用して現状や変化の過程を見える化し、個人の行動の部分までフォローするのに役立つ。コーチングは、コミュニケーションを通じてメンバーに新たな「気づき」を与えてくれる。

 この新しい気づきをベースとして目標の達成に向け、メンバーにとって必要なスキルや知識、ツールを見つけ出していく。そして、実際にメンバーが行動を起こすところへと導き、さらに継続的なコミュニケーションを通して目標達成へと前進させていく。そういう意味では、コーチングは現場から組織の変革を動かしていく、ボトムアップ型の変革を進めるにあたって有効なツールであると言えるだろう。 

2) 変化への適応力向上

  もう一つの目的は、クライアントが「コーチングを通じて、自立性や思考力、関係構築能力を向上させ、変化への適応力を高めること」にある。例えば企業組織内では、「人事異動によって部下や上司が変わる」「新しい業務を担当することになった」「転勤する」など、様々な変化が起こりえる。このような変化が発生するたびに、研修を実施して解決策を提示したり考えてもらうのは、コストパフォーマンス的に効果的ではない。

 そこでコーチングでは、コーチがそばにいない状態でも、直面している変化に対して何をすべきかを自ら考えて、行動を起こせる状態を作り出すことを目指すものである。部下の育成にあたって上司は、直面している変化への解決策を直接的に与えるやり方もあれば、その解決策を自ら導き出すための問いを与える方法もある。コーチングは後者のアプローチに該当し、コーチング対象者自身が自ら考え、解決策を導き出す力を身につけていくことを目指している。

 この「変化への適応力」は、その時々の行動を変化させることだけでなく、変化のプロセスそのものを学習することによって、後日新しい状況に直面した時に応用が効くようにすることが含まれている。