日本的経営とは(6)

2) 職能資格制度の導入

 若年層の高学歴化や技術革新の進展に伴う業務遂行能力の年齢的逆転が起こるようになった結果、職務内容や職務の難易度、職務遂行能力の年齢的逆転が起こるようになった結果、職務内容や職務の難易度、職務遂行能力が社員の階層的位置づけに反映されるような人事制度が望まれるようになった。そこで職能資格制度が開発され、日本企業に広く普及していった。職能資格制度とは、従来の資格制度を「職能資格等級」に再編成し、人事システム全体の中心におく制度である。

 職能資格等級は、企業によって必要な様々な職能を、職掌、職種と習熟度、難易度、責任度などで区分して、それらを資格による名称を付けたものである。これらの資格のなかから、各社員の職務遂行能力に適した資格を付与し運用するというものである。この職能資格制度は、社員の潜在的能力を反映している点で能力主義が、等級の基準に職務が考慮されてことから職務主義が取り入れられているということができる。

 これにより、役職ポスト不足や昇進速度の鈍化といった状況に対応することができるようになった。しかし、その職能資格制度もさらなる経営環境の変化に伴い、限界が指摘されるようになった。具体的例としては、職能資格制度の主旨である「能力に基づく処遇」が適正に行われていなかったため、結果的に年功的な運用となってしまった点が挙げられる。また、管理職昇進対象となる資格に達する段階では、過度に昇格が厳しくなるという現象が生じた。管理職の手前の等級に多くの社員が長期滞留してしまい、社員の士気が低下してしまうという企業も多くみられルようになった。 

3) 複線型人事制度の導入

 高度経済成長期を経て国民の平均的な生活水準が向上する中で、労働者の仕事に対する価値観も変化してきた。かつては生活の糧を得るために「滅私奉公」するという考え方が当たり前だったが、時代の変化に伴い、仕事を自己実現の手段として位置づけ、必ずしもより高い所得を求めるのではなく、より楽しめる仕事を求める人が増えてきた。また、ある程度の所得が確保できれば、仕事よりも家庭や地域とのつながりを重視したいという価値観に基づいた働き方を志向する人も増えてきた。

 このような価値観の多様化を受け入れて、新規学卒者の一括採用の社員を学歴と入社年次をベースに画一的に管理することが困難な状況となり、複線型の人事制度が導入された。それまでの人事制度では、全員が同じように昇進し、ライン管理職としてより高いポジションに上がっていくというものだった。しかし、複線型人事制度では、特定の専門的な仕事で自己充実や自己実現を図りたいと望む社員を専門職として処遇したり、地方への転勤を望まない社員を地域限定社員とするなど、組織内での社員の多元的な管理を可能としている。 

4) 専門職制度の導入

 専門職制度とは、社員のキャリア・パスとしてライン管理職以外の昇進の道を確立し、高度な専門能力を持った人の育成や活用を目的としたものである。専門職制度が導入されるようになった背景には、経済が低成長時代に入って市場が成熟化すると、技術革新や新製品開発、新規事業創出が経営課題として取り上げられるようになったことがあげられる。これらの経営課題に対応することができる高度な専門能力を持った創造的人材への需要が高まっているのである。

 また、生産技術だけでなく販売や経営管理技術も高度化・専門化が進み、これらに対対応できる人材の育成や配置も求められるようになっている。また、人事処遇面でも、人員構成の高度化に伴うポスト不足への対応という面もある。ただ、ポスト不足への対応のための専門職制度の導入では、単なるポスト水増し的な制度となってしまう。専門能力の内容や任用ルール、役割や権限が曖昧なまま、本来専門職に相応しくない人が任用されてしまうことが繰り返されると、専門職に対する否定的なイメージが出来上がってしまう恐れがある。

 専門職制度を有効に機能させるためには、専門職の権威と魅力を高めることが重要である。高度な専門能力保有者に対する経営上のニーズは高まっているのに対して、日本企業にはこのような人材を活用していくノウハウが十分には蓄積されていない。専門職に相応の権限を与え、その影響力の範囲や役割を正しく理解することによって、またライン管理者やスタッフとの関係をライン管理者を含めた関係者全員が正しく認知することによって、高度な専門能力が組織内に活かされる環境が醸成されるのである。

 以上のように、日本的経営の特徴について年功制を中心に見てきた。年功制に対する修正のうち、職能資格制度や専門職制度の導入は、結局は従来型制度の修正であり、根本にある年功的要素を残しながら多元的な管理を試みてきたもので、いわばマイナーチェンジによって旧来型制度の延命を図ってきたものであるということができる。しかし、第3次産業革命ともいわれるような現在の経済・社会の構造的変化の時代を迎える中では、単なるマイナーチェンジでは対応しきれないことが予想される。

 外部経営環境の大きな変動に対しいかに柔軟に対応できるか、つまり組織の能力をいかに適合させていくことができるかが、今後の企業の運命を左右するということができる。そのような中で、「人」を大事にしつつ市場の変化に柔軟に対応していくことが、今後の人事制度の大きな課題となっている。