人事システムの設計

 人事システムを設計するにあたっては、様々な要素を考慮する必要がある。イアン・ベアードルらによると、人事システムの設計で前提とすべき事項には次の点がある。それは、「経営戦略」「組織と人材のマネジメント戦略と財務状況」「労働市場(内部・外部)」の3つである。

(1) 経営戦略

 人事システムは経営戦略を実行に移していくために必要なものであり、経営戦略との整合性が求められるのは当然なことである。しかし、実際には営業力を強化したいという方針があるのに、事務職の応募者が多かったため事務職を多めに採用してしまったというケースや、欲しい人材ではなく、人事担当として採用しやすい人材を採用してしまったというケースがよく見受けられる。このようなケースは、「人事部としての経済的合理性」を優先させてしまった結果、会社全体の経済的合理性を損なってしまっているということができる。

(2) 組織と人材のマネジメント戦略と財務状況

 組織戦略を実行していくために必要だからと言って、自由に人材を採用できるわけでない。人材を採用し、採用を維持していくためには、十分な財務基盤が必要となる。採用の場合であれば、企業組織の置かれている財務状況に応じて、採用人数やどのような人材を採用するか(若手かベテランか、即戦力優先か将来性優先か)、どのように採用を行うかなどについて考慮に入れる必要がある。

また、どんなに人材を採用したいと考えても、全社的な方針がリストラ実施であったり、アウトソーシングの推進であった場合、人材の確保は難しくなる。このように企業組織の財務状況によっても、人事システムは制約を受けることになる。ちなみに、以前は不況時のリストラとなると、能力開発のための研修は真っ先に削られる「費用」として考えられてきたが、近年では、人材こそが競争力の源泉となるとの考えが浸透し、「投資」として、コスト削減の対象から外す企業が増えてきている。

(3) 労働市場(内部・外部)

 人材確保にあたっては、まず企業組織内である内部労働市場に確保を求め、それが難しいようであれば、企業組織外部にある外部労働市場から確保を試みることになる。内部労働市場に人材を求める場合に考慮すべき点としては、組織内の人材はすでに他の部署で仕事に従事しているということである。そのため、移動の手続きが必要となり、所属部署の上長と調整をする必要がある。また、どんなに欲しい人材であっても本人に移動の承諾を得ることができなければ、人材を確保することはできない。

 企業組織の内部に獲得したい人材がいないようであれば、外部に人材を求めることになるが、自社の求める人材が外部労働市場に存在し、かつ転職可能な状態になければならない。また、自社の提供する仕事内容が採択候補者にとって魅力的なものであり、かつ自社内においての採用について納得してもらう必要がある。長期的な視点に立って内部で人材を育成していくという考えもある。こうした場合には、特定の経営戦略の実行との整合性ではなく、将来実行される戦略を遂行できる対応力や柔軟性を身につけるために、より総合的な能力を開発できるようにする必要がある。

 このように人事システムの設計にあたっては、全社的なバランスを考慮に入れる必要がある。同時に全社としての組織と人材マネジメント戦略との整合性を保たなければならない。特に事業を多角化し、たくさんの事業部を抱えているような企業組織においては、こうした整合性が保たれなければ、企業組織全体のバランスが崩れてしまう可能性があるため、企業組織全体の経営戦略、そしてこれを支える人事戦略は、未来に向けた意思決定であるといえるだろう。