人事システムの目的について、戦略の実行と人材の育成の2つの視点から見てきたが、人事システムの目的は、社会のトレンドの影響も受けている。例えば、1985年に男女雇用機会均等法が施行される以前は、男性と女性で採用方法が異なっているという企業は多く散在していた。しかし、同法の施行により性別の違いによって差別的な取り扱いをすることが禁止されたため、男女区別によって採用区分を変えるのではなく、総合職・一般職という区分で分けるようになった。
このように社会のトレンドの変化に応じて人事システムも変化していくが、近年のトレンドとなっているのは、企業やその社員は良き企業市民であることを期待されているという点である。企業の社会的責任を考える時に、法令等の順守は当然のこととして、より積極的に社会へ貢献することが求められるようになっている。企業組織自体も社会を構成する一員であり、社会環境が整っているからこそ企業組織はその目標を達成できることを考えれば当然のことと言えるであろう。
例えば、トヨタ自動車では、2006年にそれまで複数の部署に分散していた社会貢献に関する部署を一つに取りまとめて、「社会貢献部」を発足させた。同社のホームページでも、同社の持つ技術やノウハウを活用しながら「環境」「人材育成」「芸術・文化」や「交通安全」等の面で積極的に社会貢献を推進していくことが紹介されている。このような社会的貢献活動を実際に行っているのは、1人ひとりの組織メンバーである。そのため、担当する組織メンバーが職務としての義務感で取り組むのではなく、自ら進んで社会貢献を行いたいという自発的な意欲があることが望ましいわけである。
そこでマネジメントには、組織メンバーの1人ひとりが、良き企業市民としての意識を持つことができるように配慮する必要がある。つまり、計画に従って仕事を進められるようにするだけでなく、社会貢献活動に取り組みやすい職場づくりが求められると言ことになる。以上、人事システムについて、人事システムを構成するサブシステムと人事システムの目的について見てきたが、人事システムは、「採用」「配置」「評価」「報酬」「能力開発」の5つのサブシステムから構成されており、それが相互に影響しながら機能を果たしている。
人事システムの目的については、戦略実行の面と人材育成の面、そして企業の社会的責任に関する面から説明してきた。人事システムも経営戦略の実行のための機能の一つであり、環境や時代の変化に合わせて、目的も変わってきているのである。ここで一つ確認しておきたいことがある。それは、人事システムの目的は、経営戦略の実行と人材の育成にあると述べてきたが、人材育成ももとはと言えば経営戦略の実行に有用な人材を活用するという目的が含まれているわけであるから、人事システムは経営戦略を遂行するための管理システムとしてとらえられがちであるということだ。
P.E.ドラッカーによれば、組織として成果を上げさせるための、道具、機能、機関がマネジメントである、と定義している(『明日を支配するもの』より)。マネジメントと管理は共通するところもあるが、実は手段と統制という関係にある。すなわち、①マネジメント(手段)は「組織の成果につながる基準による統制以外のあらゆる手段」であり、②管理(統制)は「組織の成果に繋がらない基準による統制」で、③その共通部分(人事システム)「組織の成果に繋がる基準による統制」という位置づけであるということである。