中小企業の人事評価制度導入事例

 人事評価の重要性が知られるようになるにつれて、積極的に人事評価制度を導入する中小企業が増えている。人事評価システムの導入により、人事評価制度の変革によって企業の雰囲気や社員の意識が変わった企業を紹介する。一つは、「成果主義」を導入して社員の意識が変化した企業(A社)の例である。A社は年功序列の給与体制であった。

ところが近年、若い社員から不満の声が上がるようになり、会社は人事評価制度の見直しを決定した。コンピテンシー(優れた成果を上げる社員の行動特性)がほどよくマスター化でき、行動目標の設定が容易な人事評価システムを導入した。これにより社員は自身で考えて仕事の目標を設定するようになった。それまでの受動的な勤務態度から能動的に「考えて働く」マインドに変わり、会社全体に前向きな雰囲気が醸成されつつある。

 もう一つは「優秀な人材の離職率が低下した企業(B社)の例である。B社では、人事評価制度の導入前は、経営者一人で全社員の給与を決定していた。ところが離職率が高く、優秀な人材が残らないという事態に直面した。そこで、評価基準を明確にし、社員にも解りやすくするために透明性の高い人事評価制度を導入した。これにより、不公平感が軽減された、「モンスター社員」が退職し、企業の雰囲気が改善された。加えて「会社の求める人物像」が評価制度の確立で明確になったため、「会社にマッチした人材」が集まりやすくなった。

一方、人事評価制度を導入したものの、かえって混乱を招いたり、社員のモチベーションを下げてしまった例も多く見られる。評価する側が人事評価の意義や約束事を理解していなかったため、公正な評価ができない場合である。こうした時は、評価者それぞれが評価の判断基準についてかってに解釈してしまい、評価にばらつきが出るからである。このように、「評価者を基準として評価を下す」あるいは「評価に自信がないため評価が甘くなる」「社員のイメージで評価する(勤務態度が良い、悪いなど)」のミスが多い。

人事評価制度を導入する際は、評価者への研修もきちんと行うことが大切である。特に必要なことは、FBを行うことである。せっかく人事評価を行っても、FBが無ければ意味がない。評価結果を社員に伝えるとともに、その社員が持つ課題や今後期待されること、ステップアップに必要なことをきちんと提示しなければならない。人事評価が「ただ賃金や待遇を決めるためのもの」になってしまえば、社員の育成やモチベーションアップにはつながらない。人事評価のメリットである「社員の育成」「社員の能動的態度の醸成」を得るためには、面談を行ってしっかりFBを行うことが重要である。

 人事評価がスムーズにいかず、失敗してしまうケースも少なくない。まず多いのが「評者の不満による失敗」である。中小企業で人事評価を導入すると、ただでさえたくさんの仕事を抱えているチームリーダーは新たな仕事を背負い込むことになる。「自分の仕事ができない」「その分仕事を減らして欲しい」などの声が上がり、結局人事評価をやめてしまう。次に「社員の不満による失敗」も少なくない。

 人事評価の結果によっては、「あの人より評価が低いのはあり得ない」「えこひいきだ」などの声が上がり、会社の雰囲気がギスギスしてしまう。対人トラブルの増加から、人事評価をあきらめしまう会社も多いようだ。評価者や社員による不満は、人事評価導入初期にはよくあることだ。これに対応するには、まず「評価者の意識を改革する」「噴出した課題は一つひとつに誠実に向きあう」ことを心がける。評価者の意識改革は、前述の通り事前研修などを行うことが必須条件である。一方、社員の不満は中にくすぶっているモノであるから、表面化してよかったと前向きに捉え、一つひとつ問題をクリアしていくように努めるべきである。