中小企業に人事評価制度が必要な理由

 政府主導の「働き方改革」が進む中、政府も企業の人事評価制度導入を積極的に推進している。なぜ「中小企業ほど人事評価制度を導入すべき」と言われているだろう。

(1) 社員の離職率を抑えて定着率を高めるため

 人手不足に陥りやすい中小企業の場合、適切な人事評価が社員の定着率を高めるきっかけとなり得る。新しい人材の確保にはコストがかかる上、育成には時間も必要である。企業の業績を安定させ、更なる発展を目指すなら、現在在籍している熟達した社員の離職を抑え、長く定着してもらうことが必須であるはずだ。

ところが会社で適切な人事評価が行われていない場合、社員はやりがいや目標をもって働けない。「頑張っても報われない」「働かない社員と待遇が同じ」では優秀な社員は条件の良い会社に移ってしまう。適切な人事評価制度の導入は、社員のモチベーションを高め、社員全員が会社の業績や将来の目標のために一丸となって働きやすく、それぞれが大きな戦力となる。

(2) 上司と部下のコミュニケーションの活性化を図るため

 社員が少ない中小企業ほど、個々のトラブルや状況が全体へ与える影響が大きくなる。人事評価の導入は、こうしたトラブルの早期発見に有益である。人事評価するには、社員と個別に言葉を交わしたり現状把握に務めさせなければならない。上司と部下が密にコミュニケーションを取りやすく、悩みやトラブルを相談しやすい環境に繋がる。また、人事評価の導入は上司をリーダーとして育成する上でも有益である。

まず、部下の人事評価をする上司は「理想の社員」「会社が求める社員」とは何かを常に考えなければならない。その上で、自ら手本を示さなければならないと気持ちが引き締まるはずだ。加えて部下と接触する機会が増えれば、「リーダーとしてどう振舞うべきか」も次第に見えてくるはずだ。人事評価という責任のある仕事を任せることで、上司もリーダーとしての自覚が生まれる。

(3) 中小企業における人事評価制度導入の目安

 中小企業が人事評価を取り入れるメリットは大きい。「現在人事評価を導入していない」という中小企業でも、状況によっては人事評価を検討とした方がよい。中小企業が人事評価を導入するべき目安について考察すると、以下のようなものが挙げられる。 

①従業員数が50人以上

従業員数が50人以上になると、全員の顔と名前を完全に把握するのが困難になる。社員への評価が偏りやすく、一方でワンマンな評価に不満を持つ社員も増えてくるかもしれない。人事評価制度を導入して、評価の透明性を高めるのが望ましい。一般に、チームの人員が5人を超えると業務の把握や社員の管理が困難になりやすいと言われている。現在の自社の状況をまずはきちんと把握してみるべきではないだろうか。

②給与形態を時代に即したものに変更したい

 従来のような年功序列型の給与形態の場合、働きの思わしくない社員にも高額な給与を支払わなければならない。これは現代社会の在り方にそぐわない上、人件費が肥大化する原因となる。人件費を無駄なく効率的に使うなら「働きの良い人には給与を増やし、悪い人は減らす」といったメリハリの効いた配分が必要である。人事評価は、給与を増やしたり減らしたりする際の根拠となる。

給与が減ってしまった社員も評価が公正なものであれば納得せざるを得ない。「給与を上げるにはどうするべきか」を自身で考えるようになるだろう。ただし、人事評価では「誰もが納得できる評価基準を定める事」「評価が公平であること」に注意しなければならない。

③自社に適した人材を確保したい

 適切な人事評価制度があれば、新規採用するときも「どのような社員を選ぶべきか」を判断しやすくなる。人事評価では、「あるべき社員の姿」「評価すべき行動」が明確になっているはずである。新規採用のときもビジョンを明確に打ち出しやすく、それを踏まえた応募者が集まる。会社は「欲しい」と思う人材を採用しやすくなるし、採用された方も「こんな会社だと思わなかった」というミスマッチが少なくなるだろう。新規に入社した社員は会社の意図を理解した上で入社するため定着しやすいので、離職率も下がるはず。