これからの評価制度に必要なものは(その3)

(5)今、日本で成果主義が注目されている背景

 ここまで見てきたように、日本では長らく年功序列が中心で、成果主義は、積極的に検討されてきませんでした。では、なぜ近年、成果主義が注目を浴びているのでしょうか?その背景には、経済状況の変化があります。そもそも、年功序列が日本で浸透した理由も、経済状況が影響しています。年功序列は、かつての高度経済成長期において、企業、労働者、双方にとって、メリットの強い雇用制度だったのです。当時、企業側は、経済成長に伴う業績拡大により、人材の安定的な確保を必要としました。

 経済成長と共に、企業も成長していくことを見込んでいたので、一度採用した人材を自社で育て、長く働いてもらうことは、安定的な業績拡大につながり、メリットが大きかったのです。労働者にとっても、一度入社すれば、生活の安定と保証を得られるため、大きなメリットでした。しかし、1990年代のバブル崩壊以降GDPも落ち込み経済状況は停滞。業側も雇用を維持していくことが難しい状況になっています。

実際に、経団連も201912月の定例会見で、日本型雇用制度を見直す方針を発表しています。また、直近では、新型コロナウイルスの影響で、様々な企業で業績が落ち込んだり、見通しが立たなくなっています。このような状況の中、人件費の削減・最適化を図ることができる成果主義は、メリットが大きいと言えるでしょう。最近、資生堂や日立、富士通などの大企業が相次いで成果主義型の「ジョブ型雇用」の導入を決めています。

また、花王では2000年頃より、他社に先駆けて、成果主義制度の運用がされるなど、日本でも少しずつ成果主義が取り入れられてきています。生産年齢人口が減少し、経済の成長が難しくなっている日本においては、終身雇用、年功序列などの日本型雇用システムを維持するのは難しくなっています。そのため、今後は成果主義制度を導入していく企業が、益々増えていくでしょう。

 

(6)成果主義のメリット

 ここまで海外で主流だった成果主義が、近年、日本でも導入され初めている背景を説明してきました。次に成果主義を導入することで、具体的にどのようなメリットがあるのか、見ていきましょう。

①従業員1人ひとりの生産性アップにつながる

 まず挙げられるのが生産性の向上です。終身雇用や年功序列などの日本型雇用の場合、生産性が向上しにくいと考えられています。その理由は、成果を出さなくても、給与をもらうことができ、年数経過とともに、その額も向上していくため、一生懸命働く意欲を抱きづらいためです。実際、日本の労働生産性水準は高くありません。アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデンの中で、一番低いという調査もあります。成果主義の場合、目標を立てて成果を出すことが評価に直結します。成果を出した分だけ評価されますし、逆に成果が出なければ給与は上がらないので、自ずと生産性の向上が期待されます。

②モチベーションアップ、不公平感の解消

 年功序列の場合、成果を出しても、年齢が若いからなどの理由で、給与や昇進に直接反映されにくいでしょう。成果と評価が直結しないので、社員に不満がたまってしまう可能性があります。しかし、成果主義の場合、年齢などに関係なく、評価され報酬も上がるため、社員モチベーションアップにつながりやすいです。「勤続年数の多いあの人より、自分の方が仕事をしているのに、待遇がよくない」という事態もなくなり、不公平感の解消に繋がります。

③成果で評価されたい優秀な人材の獲得に繋がる

 優秀な人材程、年齢に関係なく、仕事の成果で正当に評価してほしいと考えています。成果が正当な評価に反映される環境を整備することで、優秀な人材から積極的に選ばれる会社になっていきます。つまり、採用活動において優位に立てるので、優秀な人材の獲得にも直結するでしょう。

④年功序列ではないので、人件費を抑えられるようになる

 終身雇用や年功序列の場合、成果と給与の相関が薄いため、「あまり成果を出していない社員であるものの、年齢が高いから」という理由で、高額の給与を払う場合もあります。結果、人件費が高騰する傾向があります。成果主義の場合、成果を出す人に高い給与を出し、そうでない人に対しては、現状に応じた給与を出すため、人件費の最適化ができ、抑制に繋がるでしょう。