「脱資本主義」経営が生まれつつある

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《資本主義の前提に変化》

資本主義的経営には、以下のような原則があるが、前項のような背景により、今までの資本主義では考えられないような企業経営が生まれつつある。例えば、前述のウィキペディアがその例である。

(1)営利企業の方がより良いサービスを提供できる:ところが、非営利団体であるウィキペディアが従来の百科事典を凌駕してしまった。

(2)貨幣による財・サービスの交換がベストである:人間・企業の原動力は経済的利益、すなわち金であるという前提である。無料のサービスは品質が低い、無料で働いてくれる人は質が低く、いつでも辞めてしまうので当てにならない。お金を払ってこそ事業が機能するという考え方である。ところが、ウィキペディアの執筆者は無料で執筆し、利用者も無料で利用している。

(3)消費者には所有欲がある:人間の所有欲が需要を生み出すという前提である。ところが、我々はウィキペディアを購入して所有しているわけではない。自家用車のような、ステータスの象徴と思われていた商品ですら、シェアリング増えているのだ。

(4)生産者と消費者は別の主体である・前述のように、この前提も崩れている。我々はウィキペディアを利用できるが、自分が詳しいトピックであれば加筆修正できるのである。したがって、読者であると同時に執筆者でもある。

 資本主義こそがイノベーションを起こし、よりよいサービスを生み出すはずであったが、資本主義の原則から逸脱しているウィキペディアがイノベーションを起こして既存の百科事典を凌駕してしまった。

《見直されている企業の「存在意義」》:パラダイムの変化の象徴「SDGs」「ESG」「CSV」》

 企業は利潤最大化のため、個人は効用の最大化のために行動するというパラダイムが変わりつつある。そこでここでは、3つの代表的な動きを見てみる。

(1)SDGsSustainable Development Goals:持続可能な開発目標):富の格差、資源枯渇、環境破壊など、今までの資本主義は持続可能でないという危機感から、国際連合が提唱した17の目標。多くの企業がこの目標の達成に向けて行動するようになった。

(2) ESG投資:今までの投資機関は企業の業績や財務状況をもとに投資する企業を決めていたが、それに加えて環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance

の観点から投資の意思決定を行う投資機関が増えている。その方が長期的・安定的なリターンが見込めるという前提である。

(3)CSVCreating Shared Value):共通価値の創造):企業は事業を通じて経済的価値と社会的価値の両方を同時に創造すべきである、という考え方である(マイケル・ポーターが提唱)。従来のCSRCorporate Social Responsibility)では、企業は利益の一部を会社貢献に使うべきであると考えていたが、CSVでは事業そのものが利益をあげつつ社会に貢献しなければならないと考える。これを受けて、社会問題を営利事業で解決する「ソーシャルビジネス」が誕生しつつある。