企業が支配してきた資本主義のパラダイム

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 産業革命による大企業モデルと同時に生まれたのが資本主義のもとでの市場経済である。経済学の需要・供給曲線でみると、供給者(企業)は利己的な利潤の極大化、需要者(消費者)は利己的な効用(満足度)の最大化をそれぞれ追求しても、社会が最適点に均衡するという考え方(需要曲線と価格曲線の交点)である。「利潤」と「効用」の追求が社会をよくするという仮説が画期的であったのは、世の中の人たちのためではなく、企業も個人も自分の利益を追求してもよいとされる点である(それ以前は共同体の利益よりも自分の利益を優先することは悪いことだった)。

 よい暮らしをしたいという個人の欲求が、よりお金を稼ぎたいという欲求になり、労働力が生まれる。よい暮らしをしたいという個人の欲求が、利潤の最大化・成長という企業の目標と重なり、企業はよりよい製品・サービスを開発して提供する。より多くの所有・消費したいという個人の欲求が、需要を大きくする。大きくなった需要に対応して企業が成長し、多くの雇用を生んで人々を豊かにする。

豊かになった人々はさらに多くを消費するという好循環をもたらす。したがって、資源や製品の大量消費(浪費?)は「善」になる(それ以前は希少な資源を浪費することは悪であった)。企業の儲けたいという欲求、個人が豊かになりたいという欲求(欲望?)は「善」であり、それこそがイノベーションや成長の原動力だった。現代の企業経営はこのパラダイムのもとに行われてきた。

しかし近年、資本主義による企業の成長、消費者の大量消費というパラダイムは資源の枯渇や気候変動など地球環境の悪化を招くという問題を招く結果となった。さらに、日本が先行している人口減少に伴い、経済規模も縮小するかもしれない。また、多くの人が経済的利益を超えた価値観で意思決定・行動するようになりつつある。つまり、資本主義のパラダイムが行き詰まりになってきたということになる。

このような行き詰まりに、DXによるイノベーションという明るい材料が加わって、企業経営のパラダイムに大きな変革が起きつつある。変革の方向性の主なものの例としては、

① 近年は大企業よりもスモール/ベンチャー・ビジネスの方がインベーションを起こすといわれている。大企業が万能時代の終焉を迎えるかもしれない。

② 自己の「物欲」で大量消費する消費者という前提も変わりつつある。「所有せずにシェアする」「金銭以外の価値をより重要視する」「自己利益よりも社会の利益を大切にする」など、すばらしい新規事業機会が生まれる素地が整いつつある。

③ 技術進化により「生産者対消費者」という構造も崩れつつある。例えば、執筆したものを、出版社を介さずに直接ネットにアップして販売することも可能になりつつある。消費者が企業を頼らずに自らが「生産者」になる新しい可能性が生まれつつある。