事業戦略の策定-事業が提供する価値

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 これまで2回にわたり、「事業戦略の策定プロセス」と「事業戦略のステップ」について考えてきたが、これは要するに戦略策定をプロセス(手順・工程)で捉えるか、ステップ段階・レベル)に重点を置いて文脈を組み立てているかの違いである。したがって、戦略策定に必要な要素(考えるべきことの方向や視点)については、もれなく触れている。戦略策定に当たって考えるべき要素は漏れなく含まれている。ここからは、2つアプローチの共通点に着目しながら、各要素について詳細に見ていくことにする。

 顧客は、商品やサービスそのものを求めているわけではなく、その商品やサービスを使用・消費することで得られる価値を求めているのである。よく言われるように、顧客がドリルを求めるのは、ドリルで開ける「穴」である。したがって、ドリルメーカーが提供しているドリルは穴をあける手段であり、真の価値は「穴をあけること」である。このように目的と手段を混同してしまうと、事業の定義があいまいになり、「誰に」「何を」提供するかが定義できなくなるので、競合相手も取り違えてしまい戦略が立案できなくなる。

 モノづくりの視点からすると、性能がよい、美味しい、価格が安いなど商品・サービスが売れる条件として重要視しているように思われるが、その商品を必要としている顧客は、それを購入する動機は一体何かと考えたとき、これらの要件は必ずしも十分条件ではないかもしれない。しかし、こうしたミスマッチが解消されなければ、企業の売り上げは増えないだろうし、顧客の真のニーズもまた満たされないことになる。

 提供する価値の本質を考えることは、事業の根幹にかかわる定義域を設定することにつながる重要な意思決定プセスである。提供する価値が違えば当然競合も異なる。例えば、家電の洗濯機などは機能を買うという観点から見ると、競合は専門のクリーニング店が競合と見ることもできるだろうし、時間の節約という観点から見れば、家事代行サービス業も競合とみなすこともあり得ないわけではないかもしれない。

 しかし、「価値の本質」にあまりこだわり過ぎると、望むべき経済効果を見失ってしまうことがあるので注意したい。例えば、特定のセグメントをターゲットに設定すれば、提供価値が鮮明になるはずだから、競合も明らかになり、自社の経営資源も有効に活用できる戦略を策定できるかもしれない。でも、その市場には競合相手もいないが、規模も小さく魅力のない市場である可能性もあるので、投資効果も十分に検討することを忘れてはならない。

 もっとも、敢えて不毛の地に進出し、長い歳月をかけて市場を育てることに大きな意義を感じるという場合もあるだろう。つまり、それは戦略の問題というより事業が目指すビジョンノの問題であるかもしれない。投資効果をどのような時間軸で設定されているビジョンなのか、そして、SDGsのようなスパンの長い目標に向かって挑戦するという一大プロジェクトであるかによっても、「提供する価値」の定義が変わってくることになる。