組織の目標によって能力の評価軸が異なる

 

 経営者はそれなりの理念を持ち、それに基づいて目的を設定します。ということは各社夫々の戦略(目標達成のための戦い方)も異なるし、当然その戦略遂行に適した組織も異なるはずですから、組織メンバーに求められる行動規範が自分自身に適しているとは限りません。しかし、それは組織の側から見れば仕方のないことですから、社員はその行動規範により活動することが成果の評価軸になることを甘受しなければなりません。

 もしもあなたが、不幸にして自分の会社組織の水に合わなかった場合、どうしても会社が求める成果を達成することができなかったり、あるいは、自分が発揮したパフォーマンスに見合わないと感じることもあるでしょう。でも、そのことをもって、会社は自分の能力を正当に評価しないと考えるのは間違いです。前述のように組織は経営理念に基づいて設定された組織目標達成のために編成されたチームです。

 もっと解りやすく言うと、野球チームに属していれば、「投げる」「打つ」「守る」という基本的な能力に優れ、実践でその能力を如何なく発揮し、チームの勝利に貢献した人が高く評価されるのは当然です。そんなチームに相撲の得意なあなたが入団したらどうなるでしょう。もちろん世の中には何をやらせても上手な万能な人もいますから、そういう人であれば別として、少なくても野球が得意な人よりは好成績を上げるのは難しいでしょう。

 しかし、野球のチームでは、野球をする能力とチームの勝利に貢献した人を高く評価するのは当然です。つまり、この評価はもともと人物評価ではないわけです。でも、野球は得意で他の選手に比べてもそん色ないと思うのだが、監督がどうも自分を好きではないので、意識的に自分に活躍の場を与えないようにしている。いまでいうパワハラなどがこれに当たるので、意外とそうしたことは多いのかもしれないが、そこは見極めが必要です。

 あなたがもしもそうしたポジションに置かれているのだとしたら、その監督にどのようにすれば自分を活用してもらえるのか、そもそも、なぜ自分を嫌いなのかを調べる必要があるかもしれません。それがあなたの目標達成のための戦略的環境ということになると思います。この環境をよく読み込んで、監督にアビーするのも一つの方法でしょう。いわゆる要領の良い人というのは、これがうまい人というわけです。

 また、監督の自分に対する評価が厳しいのは、チームの勝利に貢献する能力を基準にしているだけで、意地悪ではないことを認識できたら、その時は、チームを離れ別のチームに移籍するか、あるいは別のスポーツに鞍替えするかを考えることになるでしょう。ですから、あなた自身の能力と今所属している組織が要求している能力に大きな違いがあるのであれば、独立して起業することに舵を切るべきかもしれません。

 このように、他人の評価と自分がもともと持っている独自能力は相いれないのが当たり前です。それを単に嘆き悲しむのではなく、自分の思いを実現するために、自分の能力を求めている人に接近するのが、起業するということです。この本で、そうした人生の岐路に差し掛かっている人たちに向けたメッセージを届けたかったのです。それには、理不尽な評価に耐え抜くか、それとも一気に独立開業に踏み切るかといった単純なものではありません。