予測不能性{11.ケース・スタディ 7ノルマンディ上陸作戦}

 

 1944年、連合軍はヨーロッパ解放のための軍事行動を計画していた。一方、ナチの側もそれに備える防衛策を練っていた。上陸地点としては二つの可能性が考えられた。それはノルマンディ海岸とカレーである。防衛が手薄であれば上陸作戦は確実に成功するので、ドイツ軍はこの二つの予想される上陸地点のうちの一つに兵力を集中しようとしていた。カレーは上陸するには難しいが、より価値の大きい上陸地点と考えられていた。

カレーは、連合軍側の究極の目標であるフランスやベルギー、そしてドイツ自身により近接しているからだ。上陸成功の確率は図7-10(省略)のようであると仮定しよう。ここで0から100までの尺度を用いて、連合軍はカレーの上陸に成功した場合は100、ノルマンディの場合は80、失敗した場合はどちらの地点でも0の効用を得るしする。(ドイツの側の点数は、連合軍側の点数をマイナスにしたものとなる。連合軍最高司令官アイゼンハワー大将とフランスの海岸で守りを固めるドイツ軍指揮官ロンメル元師の両者に同時に成り代わって考えると、どのような戦略を選ぶのがよいだろうか。

 

《ケース・ディスカッション》

 まず、成功の確率と成功の場合の点数を組み合わせて平均期待得点表を作ってみよう。得点は連合軍側の視点による。連合軍とドイツ軍の利益は完全に対立しているので、ドイツ側からみた得点は連合軍の得点のマイナスとなる。基本戦略には均衡が存在しないのでミックスを考える必要がある。ウィリアムズの方法を使って、連合軍はノルマンディとカレーを上陸地点に選ぶ比率を(100-20):(80-60)つまり4対1にすべきであることがわかる。同様に、ドイツ軍はノルマンディとカレーで防衛にあたる比率を(80-20):(00-60)、つまり3対2にすべきであることが知れる。両者がそれぞれ最善のミックスを用いた場合、連合軍側の平均期待得点は68である。上記の確率と点数は最もらしいものではあるが、この種の問題について正確な数値や断定的な結論を出すことは難しい。

 そこで、得られた結果と実際に起きたことを比べてみよう。回顧してみると、連合軍側のミックス比率は大幅にノルマンディに傾いていたことがわかる。事実、連合軍はノルマンディを上陸地点に選んだ。一方、ドイツ軍にとって、防衛地点をどちらにすべきかの選択は際どい確率でせっていた。それゆえ、連合軍の二重スパイを使った策略や指揮部隊間の意見の不一致、また非常に重大な局面のときにロンメルが前線を離れていたことなどの不運に見舞われ、ドイツ軍の意思決定が揺れ動いていたのも驚くに値しない。D・ディの日の午後、連合軍のノルマンディへの上陸が成功しそうにみえたときも、ドイツ軍はもっと大規模な上陸がカレーで行われると信じて、予備兵力をノルマンディに投入することができなかった。連合軍側は有利にことを運び、ノルマンディに足場を築いた。その後の展開は知られているとおりである。