予測不能性{10.発見の構図(2)}

 

 これはミックス戦略の応用例の一つである。テニスの例と比べると、似ている点もあれば違う点もあることに気がつく。当局は、規則的な取り締まりより優れている無作為戦略を好む。何もしなければ、貴重な駐車スペースが無駄に使われるし、違法駐車を100%摘発するのはコストがかかり過ぎる。一方、駐車する側には必ずしも無作為戦略があるわけではない。実際、当局は違反の発見確率と罰金を十分大きくして、ドライバーに駐車ルールを守らせようとするだろう。

 職場での無作為の麻薬検査も駐車メーターによる取り締まりと同じような特徴を持っている。麻薬を使っているかどうか、毎日、全従業員をテストするのは時間もかかるし費用もかかる。さらに不必要ともいえる。無作為に検査を行えば、麻薬づけの従業員を発見するだけでなく、たまに使う従業員にも使用を思いとどまらせることができる。見つかる確率は小さいが、捕まったときの代償は非常に大きいからだ。内国歳入庁の税務調査戦略の問題点の一つはこのことに関係している。

 脱税が見つかる確率に対してペナルティーが安すぎる。取り締まりや調査を全数でなく無作為に行うときは、罪に比べて罰を重くしなければならない。不正を発見する確率を計算に入れ、予想発見率で修正した罰が罪に見合う大きさになるようにすべきだ。取と締まりを逃れようとする者も無作為戦略を役立たせることができる。多くの贋の仕掛けや囮の中に本当の玉を隠して、取り締まり側の勢力を分散させ無効にすることができる。例えば、対空防衛網は、侵入してくるミサイルをほぼ100%破壊する必要がある。

攻撃側にとって防衛網を破る安上がりの方法の1つは、本物のミサイルの周りを贋の囮ミサイルで護送することだ。本物のミサイルに比べ、贋の囮ミサイルは作るコストがずっと安い。防衛側は贋の囮ミサイルと本物のミサイルを完全に識別できない限り、贋物も本物も侵入してくるミサイルは全て撃破しなければならない。不発弾も混ぜて一緒に発射してしまうという発想は、囮ミサイルのような意図的なものではなく、品質管理上の問題の対応として第二次大戦中に生まれた。

ジョン・マクドナルドが彼の著書、「ポーカー、ビジネス、戦争における戦略」で説明しているように、「製造段階で欠陥のある砲弾をゼロにするのは非常にコストがかかる。当時、だれかが不発弾が製造されるのはそのままにしていて、不発弾も無作為に発射してしまうことを思いついた。敵軍の指揮官は時限爆弾を自分の足の下に埋まったままにしておくのは嫌だ。しかし、彼にはどれが本物か見分ける術がない。それゆえ、彼は破裂していない弾をいちいち調べなくてはならない」ことになる。

防衛側の費用が、撃ち落されなければならないミサイルの数に比例して高くなるとき、攻撃側はその費用をべらぼうに高くすることができる。これは、『スター・ウォーズ』防衛計画の主要な問題の一つである。この問題には解決策はないかもしれない。