予測不能性{7.一回きりの勝負}

 

 こうした論法は、フットボールや野球、テニスのように、一つの試合の中で同じような状況が何回も起こったり、同じ選手が時や場所を変え、繰り返し試合で対戦するときには意味がある。相手の体系的な動きを観察し、反応するチャンスが生まれる。したがって、こちらも自分の動きに相手を利用するようなバッターを入れることを避け、最善のミックスを保たなければならない。しかし、たった一回だけの勝負のときはどうしたらよいだろうか。

 戦闘において攻撃地点と防衛地点を選択するケースを考えてみよう。こうした状況は通常、一回きりのもので過去の行動から作戦を類型化することはできない。しかし、スパイされる可能性もあるので、無作為な選択を用いる場合もある。もし、行動に明確な方針を採用すると、敵はこちらの意図に気づき、こちらが最も不利になるような対応策をとってくるだろう。相手を驚かせるには、自分自身にもどれを選ぶか分からないような行動をとることだ。

 できるだけ選択の幅を持ち、スパイを防ぐために、最後の瞬間に予測不能の方法で行動を決めると良い。また、行動選択の比率は、敵がその比率を知っても全く有利にならないような比率であるべきだ。これは、今まで見てきたような最善のミックスである。最後に警告しておこう。自分の最善のミックスを使っても結果が吉と出ないケースもある。デイブ・スミスが予測不能の技を使っても、ときにはレン・ディクストラの推量が当たりホームランが生まれることもあるだろう。

アメリカン・フットボールでもサード・ダウンの残り1ヤードという場面では、中央のライン突破が最も確率の高い攻めである。しかし、たまにはパスを投げ、ディフェンスを基本どおりの形に守らせておくことも必要だ。もしパスが成功すれば、ファンや実況中継のアナウンサーは意表を突いた賢いプレーに感嘆し、コーチを天才だと褒めたたえるだろう。しかし、もし失敗すれば、コーチはどうしてパスなんかでギャンブルしたんだとものすごい批判を受ける。

コーチの作戦を正当化するには実際にある場面でパスを使う前から準備がいる。コーチはプレーにミックスを与えることは非常に重要だと宣伝にこれ努めなければなにない。ディフェンス側はたまのパスに備えて守りを分散させるからこそ中央のランは成功率が高まる。というのがその内容である。しかし、たとえコーチがこのことを試合前にあらゆる新聞やテレビデでしゃべっても、先ほどのような状況でパスを失敗したら、ゲームレ理論の要素を使って人々に説明しようとしたことなど全くお構いなしに、以前と同じ量の批判を浴びるのではないかと思われる。