お客様の顔が見える小さな市場を選ぶ

 

 起業するということは、将来的には売り上げを大きく伸ばし、企業を発展させることが大きな夢であり、素晴らしいことである。しかし、どんなに素晴らしい商品やサービスをもって挑んでも、大きな市場では巨大な企業が待ち構えているはずである。そこでまず、自分が提供する商品やサービスをより高く評するフアン層を中心にマーケティングを展開することになるわけであるから、顧客の深層心理を手探りで収集するしかない。

 今日では、ITやAIを活用した解析が有力な武器となってはいるが、これらにより有用な情報がもたらされるのは、膨大なデータ(ビッグデータ)が必要で、コストも時間も要するので、苦労して得た情報は競合相手も把握していると見るべきである。その点、フアンから得られた情報を頼りに仮説を立て、PDCA(計画・実行・チェック・アクション)を繰り返すという、手作り情報収集、蓄積、加工、分析する方が有意な情報が得られる。

 そもそも、マーケティングとは消費者が本当は必要ないものを買う気にさせるという概念ではないが、現在は、単に売上を上げるための道具として使われている感は否めない。もちろん、経営目標を達成するためには、企業規模を拡大し生産力や販売力を増大させることは、その条件である資金を獲得しなければならないから、ある意味では、利益を出すことが目標となることはやむを得ないことかもしれない。

 しかし、消費者の購買力を必要以上に刺激し、売上を上げることがマーケティングであるという考え方・やり方は、本来は慎むべきことである。起業を志す人が、この手法にのめり込んでしまっては、真のマーケティングの重要性をないがしろになってしまい、結局は長いものに巻かれることらなり、このやり方に疑問を感じ始めたときには、もはやブレーキが利かなくなり、そのまま突き進むしかないという状況に落ちてってしまう。

 起業家は、野心的であることが一種の魅力でもあるから、一日も早い企業の成長を願うのは当然かもしれない。しかし、十分な装備をせずに高い山を目指すのが危険であるように、はやる気持ちが致命傷を招くようでは主客転倒である。それでは、黎明期にある企業はどのような市場でどのように戦えばいいのでしょうか。それは、ずばり、小さな市場で、自社と同じ戦略グループとの戦いを優位に進める方策を講じることである。

 そこでの戦いは意外と簡単である。そういうと、簡単だなどとは何事だ! と叱られそうですか、怒るのはもう少し後にしてください。というのは、市場が小さければ、消費者の購買行動や購買態度などの変化が観察しやすい。また、同じ戦略グループの動きは勿論、資本力、財務内容なども詳細に把握できるはずである。そして、最も肝心なことは、これらのグループはこぞって上を目指す戦略をとっているということである。

 攻撃は最大の防御なりという言葉がありますが、上にばかり目が向いている企業は、えてして脇が甘く、横から見ると弱みが丸見えである。少しえげつないと思われるかもしれないが、ライバルの隙をつくにはもってこいのチャンスである。つまり、この隙を狙って、ライバルがないがしろにしている元々の顧客を取り込む戦略を考えるわけである。どうでしょう。これなら、それほど背伸びもせずにシェアを拡大することができるというわけです。