テニスのレシーブでは、最後の瞬間までどちらのサイドに山を賭けているかを明かさない。さもないと相手はこちらの動きを読んで、逆の方向に球を打ってくるだろう。両方のプレーヤーがこの戦略をとれば、動きは同時進行的に行われることになる。しかし、相手の動きを観察できないときでも、予測できれば非常に有利になる。もしサーバーがいつもレシーバーのバックハンドを狙ってくれば、レシーバーはそれを見越してバックハンド側に動き、結果としてサービスのリターンがよくなる。
それゆえサーバー側は、レシーバー側が狙い予測しないように、予測不能性をもたせようとする。だから、レシーバー側も、いつもどちらか片方の側に動いて待ち受けることはできなくなる。ところで、この場合は指合わせの時とは違って、予測不能性を達成するのに、各選択肢を同じ確率で選ぶべきではない。相手の出方を計算したうえで、ある側を選べば、パフォーマンスをよくできる可能性がある。
話を具体的にするために、ある技術レベルを持った一組のプレーヤーを考えみよう。レシーバーはフォアハンドのほうが得意だったとする。もし、予想があたれば、サービスのリターン成功率はフォアハンドで90%、バックハンドでは60%と仮定する。もちろん、予想が外れればリターン成功率は低くなる。バックハンドを予想したのにサービスがフォアハンド側に来た場合はリターン成功率は30%、フォアハンドを予想したのにサービスがバックハンド側に来た場合は20%とする。以上のことは次の図(図7-2:省略)のようにあらわすことができる。
もちろん、サービスをする側はリターンの成功率をなるべく低く抑えたいし、レシーブする側は高くしたい。試合の前に二人のプレーヤーはゲーム・プランを練る。最適の戦略は何だろうか。サーバーがいつもフォアハンド側を狙えば、レシーバーはそれを予測してフォアハンド側に動き、レシーブ成功率は90%になる。反対に、サーバーがいつもバックハンド側を狙えばレシーバーはそれを予測してバックハンド側に動くので、レシーブ成功率は60%となる。
サーバーは狙いを分散させ、ミックスさせることでレシーブの成功率を下げることができる。サーバーが狙いをミックさせれば、レシーバーは常に確実な予想をすることはできなくなり、正しい予想に基づいた高いレシーブ成功率を維持することは困難になる。ここで、サーバーがサービスをする前に想像上のコインを投げ、表か裏かでフォアハンドかバックハンドかを決めるとすると考えてみよう。レシーバーは常にフォアハンド方向に動くとするとどうなるだろうか。
この動きは二分一の確率で正しい。正しい時にはフォアハンドでのリターンは90%の確率で成功し、外れたときにはリターン成功率は20%になる。合計のリターン成功率は1/2×90%+1/2×20%=55%である。同様に、レシーバーがバックハンド方向に動けば、合計のリターン成功率は1/2×60%+1/2×30%=45%と計算できる。サーバーが50対50のミックスでサーバーの方向を決め、レシーバーが自分の立場から最善の選択を行うと、レシーバーはフォアハンドの方向に動くことはなくなり、レシーバーはフォアハンドの方向に動くことになり、レシーブの成功する確率は55%となる。