これまでの思いをストーリー化してみよう

 

 ストーリーとは、ズバリ言えば物語である。しかし、ここでいうストーリーとは、単なる情報の伝達ではなく、その心に秘められた「人間愛」や「環境保全」「貧困撲滅」など、企業活動を通じて実現したいことを象徴したものであることです。しかし、その内容をストレートに伝えるのでは、事実としては伝わり易いが、それを受け取る側である読み手にとっては、「だからどうしたの!」という反感が残ってしまうこともある。

このような棒読み的なスタイルでは、せっかくのストーリーが割引して受け取られ、発信者の真意は伝わらない。といっても、あまりにも脚色しすぎて事実と異なるものであれば、受け手をミスリードしてしまうことになるので、これもまずい。一昔前までは、日本人は馬鹿正直な表現が好きで、事実を時系列的に並べ、まるで小学校の就学旅行の顛末を圧縮したような表現が多かったが、近年は大分洗練されてきたようである。

言葉や画像に込められた「思い」が見事に表現されているものも増えてきているが、相変わらずビジュアルに拘り過ぎて「インパクトの強さ」に偏り過ぎているものもある。「〇〇個入」や「ナンバーワン」「世界で初めて」などというフレーズを散りばめられているところを見ると、他社製品よりも優れているという印象を植え付けようとしていることに傾斜し過ぎているため、たちまち、言葉の競争が始まり自社製品の特長が見えなくなる。

もっとも、こうした戦略は、仁義なき戦いに陥ることを織り込み済みで、成熟期を迎えた製品のライフサイクルを少しでも長く引き伸ばすための「閉店セール」のようにも見えることもある。こうしたCMは、「早く買わないと損をする」、「今なら買得」という消費者心理を利用した誘い水作戦であろうが、いやというほど経験を積んだ消費者は、もうそろそろ冷めてもいいはずだとは考えないのだろうか。

少なくとも、起業に踏み出して自分(自社)の作った製品を不確実性にみちた市場に送り出す黎明期には、「わが社は何のために存在しているのか」をメインテーマにしたメッセージを伝えることに重点を置くべきである。「人に優しい」とか「環境優しい」といった内容は必要ではあるが、消費者の心には、そうした美辞麗句がストレートには受け取られないことを知っておくべきだ。ここでは何よりも誠実に、自分の思いを伝えるべきである。

現代のような、人々が疲れ切っている生活者には、「自分は何のために生きているのか」という疑問にこたえ得るものが必要である。つまりそれは、物質的な要求にこたえるという露骨なものではなく、消費者の心の隙間を埋める価値があると気づかせるようなメッセージ性のあるものである。もちろん、人によっては、楽しい人生を日々謳歌しているといった幸せいっぱいの人もいるでしょうから、その人に向けたものであれば別である。

 いずれにしても、あなたの心の欲求に応えられるのが自分(自社)なのだと語りかけるものであることが望ましい。すなわち、それは経営理念に裏づけられた商品コンセプトだったり、社員の行動規範などをさりげなく表現できれば上出来である。要は、自己主張が強すぎたり、逆に、あまりにも抽象的で解り難いというものをさけ、明確で短く凝縮されたストーリーであるということが、何より重要であるということです。