実行の確約{4.ケース・スタディ 6 IBMからコンピュータを借りるのがよいか?}

 

 12年以上にわたる争いを経て、アメリカ政府対IBMのケースは独占禁止法の訴訟例として現在に残っている。そこでの争点の中に、汎用大型コンピュータを販売する代わりにリースするというIBMの政策をめぐるものがあった。政府はIBMの短気のリースを中心としたマーケティングは、参入障壁を構成し、独占利益をもたらしているとして非難した。一方、IBMは、IBMのマーケティングは消費者の利益にかなっていると反論した。

 IBMの主張は、短期リースはユーザーを陳腐化の危険から解放し、ニーズの変化に柔軟に対応させ、IBMにリースした機械に対する責任を持たせ(機械を貸しだした側が保守等の責任を負う場合がある)、また、IBMの潤沢な資金を利用できるようにしているというものであった。この反論は説得力を持っている。しかし、このリースはまだ見過ごされている利点がある。もし、IBMが大型汎用機をリースする代わりに売るとしたら、価格にはどのような影響を与えるだろうか。

 

《ケース・ディスカッション》

 外部に競合のない会社であっても、将来の自社と競合することを考えねばならない。新しコンピュータを世界に送り出すとき、IBMは技術進歩を待ち構えていたユーザーに対し、初期の出荷モデルを非常に高い値段で売ることができる。しかし、出荷態勢が整うと、値段を下げてもっと多くのユーザーに売り込もうという誘惑が生じる。コンピュータの開発にかかった費用は、初期のうちにあらかた回収され、後のセールはうまい儲けとなる。

 ここで問題が現れる。もし、IBMが値段を引き下げるとユーザーが予想すれば、彼らは購入を差し控えるだろう。大多数のユーザーが買い控えをする状況では、IBMは値下げのサイクルを速め、より早くユーザーを獲得したいという衝動にかられる。この考え方は、最初、シカゴ大学の法律学者ロナルド・コースによって唱えられたもので、耐久財の独占メーカーは将来の自社自身と市場で競合することになる。

 リースとは、IBMにとって値段を高いままにとどめておくことを確約させる仕組みである。リース契約の下では、IBMは価格を下げると非常に大きい打撃を受ける。機会が短期でリースされているとき、値下げはこれから買うユーザーだけでなく、全てのユーザーに効力を及ぼす。したがって、値下げによる既存ユーザーからの減収は、新規ユーザーからの収入増を上回る恐れがある。ところが、既存ユーザーが自分でコンピュータを購入し保有している場合は、この現象は発生しない。すでに買ってしまった客には、後で値下げしても返金する必要はないからだ。

 リースは小さなステップに分割して行動する例の一つである。ここでのステップとはリースの期間を指し、リースの期間が短いほどステップは小さくなる。ユーザーはステップが大きければ(リース期間が長ければ)、IBMが高価格を維持するとは考えないだろう。その場合ユーザーは値下げを待って、同じ機械を少し後でより安い値段で手に入れることになる。しかし、もしIBMがコンピュータを短期のみで契約を更新しながらリースすれば、高価格を保てるのでユーザーは待つ理由がなくなり、IBMに有利になろう。

 大学の教官として、また教科書の著者として、もっと関係の深い教科書の市場にも同様の事象があることに触れておこう。実行を守れるなら、出版社は、よく見受けられる三年毎ではなく五年毎に新版を出せばもっと儲かるだろう。長く使えるようになれば古本市場での価値が上がり、かくして、新版が出たときに学生が払ってもいいという期待値は上昇する。問題は、ひとたび古本が出回ると、出版社には新版を出して古本を駆逐しようという動機が発生することだ。だれもがそうなると予想するので、学生は古本をより安い値段で買うことになり、新版には高い値段を払いたがらない。出版社の解決策はIBMと同じである。本は売るより貸すのが良い。