実行の確約{3.断れない誘い}

 

 断れない誘いは、映画『ゴッド・ファーザー』の中にだけ出てくるわけではない。小さな違いはあっても、このような誘いは非常によく見られる。うまく行ったように見える就職面接の後、ラリーはその会社が彼の就職希望先の何番目かを尋ねられた。返事をする前にラリーは、その会社はその会社を第一志望としている人だけを採用する、と言われた。実際、その会社が彼の第一志望であれば、会社側は会社のほうで採用の意思表示をする前に、彼にその会社に勤めるといわせて人材を確保しようとした。このような断れない誘いを受けて(さもなければ採用されない)、ラリーはどうするのが良かっただろうか。

 ゲーム理論の考え方を使って、この状況を考察してみよう。会社は第一志望にしている者だけを採用したいと主張している。しかし、この応募者に圧力をかけるやり方は、会社の意図通りに作用しない。もし、会社が本当にその会社を第一志望にしている者を採用したいならば、会社は応募者の希望順位によって採否の結果を決めるべきではない。面接の手続きが終了した後、もしその会社が実際にラリーの第一就職希望先なら、会社の採用通知に対し、彼が入社の返答をしてくるのは順当である。

 勤めたい会社の採用通知を断る人はいないだろう。一方、もしその会社が第二志望であり、かつ一志望の会社からはまだ回答を受けていない場合は、ラリーは一つも職を得られないという事態を避けるべく、第二志望の会社の採用を受け入れるかもしれない。第一志望の者だけに採用通知を与えるという会社の方針は、実際には、そこを第一志望にしていない者も採用することになる。

もっと正直に、正確に会社の政策を表現するとすると、「君にわが社に入社してほしい。もし、君の第一志望がわが社なら、わが社は君を雇うだろう。しかし、もしわが社が第二志望なら、君を雇えないかもしれない。例え、わが社が君の第一志望でないとしても、君を雇えるように前もって君にわが社への入社を同意してももらいたい。それができないならば、採用OKにはしない」ということになる。しかし、これは信頼性の高い脅しとは言い難い。会社はラリーに入社してほしいので、もし彼の第一志望でなかったとしても採用したい。同時に、もしラリーがあらかじめ入社に応じなければ、後になってやはり入社すると言ってきても、もう雇わないと言っているのだ。これは可能だが、実現しにくい状況である。

ラリーは面接を始めたばかりで、就職希望順位を決めるにはまだ材料が少な過ぎると説明した。会社は、前もって勤めると言わなければ採用はしないと念を押した。それで彼は、採用といわれることなく水曜日に面接を辞した。金曜日には、彼の留守番電話に採用を伝える伝言が残されていた。次の月曜日には、採用を改めて伝える別の通知が届けられた。水曜日に至り、今、入社に応じればボーナスを払うという電報が着いた。雇い入れたい人間に、採用のOKを出さないという確約を実行するのは難しい。

 会社は脅しの信頼性を増すために何ができるのだろうか。採用決定権限を持つ人が複数いるとして、もしすぐに入社の返事をしなければ後から来た別の応募者をおす人が現れて、前の人の採用に関して意見が割れるというのは起こりえる事態である。本書10章の投票に出てくるように、候補者を選好する順番によって、最終的な結果が違ってくるかもしれない。選考委員会の決定は偶然に左右され、同じ候補者群から選んでも同じ結論になるとは限らない、ということができる。委員会で合理的な決定が行なえないことが、今すぐ同意しなければ採用できないかもしれないという脅しを信頼性あるものにする。

 今なら有効だが、後でも有効とは必ずしもいえない誘いを受けると、いろいろ比較しにくくなる。ステレオ販売店や車のディーラーは、この戦術を非常に効果的に用いる。ところで、売り手の側は今日は有効だが、明日は駄目という脅しにどうやって信頼性を持たせられるのだろうか。答えとしては、翌日には仕事が上向きになるとか、すぐに現金がいるという事情は解消する、というものも考えられる。しかし、これこそ売り手がよく言うように、滅多にない機会というものかもしれない。