実行の確約{2.祖国のために捧げる命}

 

 兵士が国のために命を投げ出すのも辞さない状況は、どうやってつくり出されるだろうか。戦場で、もし各々の兵士が命を賭けることの損得を理性的に計算し出したら軍隊は終わりだろう。兵士を誘導するには何か仕組みが要り、そのためには上記の方法のいくつかが応用できる。すでに退路を除去する方法、落伍を防ぐために罰やチームワークを用いる方法を探ってみよう。

 まず新平訓練が始まる。軍隊の最初の訓練は非常に不快さを与えるものだ。新兵は手荒く扱われ、辱めを受け、強烈な肉体的、精神的緊張の下に置かれる。数週間で人格が変わる。この過程で重要なのは、命令には疑問を持たず、自動的に従うことを習慣として植えつけることだ。なぜ、靴下をたたんだりベッドメーキングをするのをあるやり方で行うか、そこには、上官がそう命令したという以外理由はない。

この方法は、命令がもっと重要なものである場合にも同じように服従するだろう、ということを前提としている。命令に疑問を持たないように訓練すれば、軍隊は戦う機械になる。実行の確約は自動的に確保される。こうして各兵士の非合理性は戦略的合理性に変わる。シェークスピアはこのことをよくわかっていた。アジンコートの戦いの前夜、ヘンリー五世は祈った。

 

「おお戦いの神よ、私の兵士から心を奪いたまえ。彼らから『恐れを失わせたまえ。今すぐに、とりはらいたまえ。彼らから、考える力を』」

 

 続いて、兵士一人一人に誇りがしみ込まされる。祖国への誇り、兵士であることの誇り、そして闘う伝統の中にいる誇り、である。アメリカ海兵隊、イギリスの有名な陸軍連隊、フランスの外人部隊は、この方法を例証している。その部隊が戦闘の中で立てた軍勲は常に語り継がれ、英雄的な死が讃えられる。栄光の歴史を繰り返し説くことで、新兵はその伝統に誇りを持ち、もし有事来りせば、同じような行動に出ることを厭わなくなるのである。

 部隊の指揮官はまた、兵士のさらに個人的な誇りに訴える。シェークスピアによれば、ヘンリー五世はハーフルーで部隊を次のように鼓舞した。「そちたちの母に恥をかかせるな。今こそ、そちたちが父と呼ぶ、そちたちをこの世に遣わせた者に誓うのだ」。誇りは、しばしば選ばれた者という感情を呼び覚ます。それは、他の多くの者が欠いている何かを行ったり、持っていることから生まれる。ヘンリー五世に戻って、アジンコートの戦いの前に彼が部隊に話したことを聞いてみよう。

 

 「われら、少なき者、われら、幸運な少なき者は、兄弟の絆に結ばれる。今日、私とともに血を流すものは、私の兄弟にならん。イギリスの男で、今、惰眠を貪る者、彼らは、今、ここにいないのを呪うであろう。そして、聖クリスピンの日のわれらの戦いが語られるとき、彼らの男ぶりは、地に墜ちるであろう」

 

 チームワークと契約、退路の除去を組み合わせて使う場合も存在する。ヘンリー五世の話を続けてきこう。

 

 「この戦いに気の進まぬ者よ。汝を帰そうぞ。旅券を用意し、帰国のための王貨を、汝の財布に入れようぞ。われらは、われらとともに死ぬのを恐れる者を仲間として、ともに死ぬことはない」

 

 もちろん、皆、この申し出を公然と受けるには恥の意識が邪魔をした。しかし、この申し出を断ることは、心理的に逃げ道を断つことを意味した。さらに、兵士たちは死を躊躇しないという契約をお互いにかわしたことになる。いかに軍勢を動機づけ、戦闘に邁進させるかをヘンリー五世が数の不利を跳ね退け、戦いに勝利したことに示されている。