事業領域を設定することの意味

 

 事業領域とは、「だれに」「何を」「どんな方法で提供するか」によって決められる範囲と言い換えることができるでしょう。もっとも、総合商社などは、全ての人を対象にしているので、取り扱う商品も多岐にわたり、かつ、各セクションによっては提供方法も異なるので、ここでいう事業領域という考え方は馴染まないと思われるかもしれません。しかし、事業領域が設定されていなければ、社員はどのように行動すれば良いのか迷ってしまいます。

第一、顧客から「あなたの会社は何をする会社なの?」と聞かれたとき、他社との違いが明確にわかるように説明できません。また、その説明を顧客に理解してもらえたとしても、社員の皆さんが同じベクトルで仕事をしていなければ、業績は上がらないことになってしまう可能性が大きくなるはずです。特に中小企業の場合は、経営者の拘りがそのまま経営理念として貫かれていますから、この理念に沿って、ビジョンやこれを達成させるための経営戦略に一貫性が生まれます。

ただし、近年は目まぐるしく経営環境が変化するので、大枠の目的は変わらなくても、目的を達成するための手段である戦略は転換を余儀なくされることもあるでしょう。事業領域をはっきり定義されていない企業は、経営環境が変化すると、手当たり次第に他の業種や業態に触手を伸ばす傾向があります。一時的には業績の改善には寄与するものの、顧客のロイヤリティは低下し、やがて激しい価格競争に巻き込まれしまうことになります。

こうなると、限られた経営資源を適正に配分することが困難になり、資金繰りもタイト化する。起業の発展は、「顧客」「商品・サービス」「提供方法」「アフターサービス」などが総合的に判断され、それに伴うロイヤリティの蓄積にかかっている。それが大きな経営資源を形成し、ブランドとして評価されることになる。無暗やたらにいまだ十分ではない経営資源を浪費するという、生傷の絶えない戦い方では到底シェア争いに競り勝つのは難しい。

つまり、事業領域を設定するということは、顧客に「自分が選ぶべきブランドであるという強力かメッセージ」を送ることに他なりません。そして、顧客が抱いている期待に応えることが使命であるという理念の下で、社長以下、全ての社員が行動しているという一貫性を提供する基盤であるといってよいでしょう。フアンはスポーツやタレントの専売特許ではありません。企業に対しても熱い声援を送るという行動もとります。

このように、抽象的で一見分かりにくい事業領域ですが、企業アイデンティティを確かなものにする土台としての役割をもっているので、起業する場合でも、大事にしたいものです。事業領域の設定と経営理念は連鎖して打ち出されるものですから、企業の応接室に掲げられている社是などと矛盾しているはずはないのですが、企業によっては、全くちぐはぐな感じがするものもあります。額縁に収められた社是は、掛軸や花瓶とは異質のものです。

あなたが、職場に馴染めないのは、もしかしてこの社是と会社の行動規範があまりにもかけ離れていて、経営者の理念や事業領域が見えないことにも原因の一つがあるのかもしれません。また、組織間で生じるコンフリクトなども、ここに原因があることも珍しくありません。もしあなたが部下から、こうした点について質問を受けたらどう答えますか。