囚人のジレンマ{2.裏切りを見つける方法}

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 カルテルは裏切りが起きたとき、それを見つける方法、また、裏切ったのはだれかを見つける方法を有していなければならない。今まで使ってきたケースでは、裏切りが起きたのを発見することは比較的易しかった。例えば、イランとイラクのケースでは、25ドルの価格は、両国が協力してともに生産量を一日200万バレルに押さえたときにだけ可能であった。

 それゆえ、価格が25ドルを下回れば裏切りが起きた、ということになる。しかし、現実の世界では自体はもう少し複雑である。価格の下落は裏切りによっても生じるし、需要の減少によっても生じる。外部の要因からの影響を区別できないと、実際は裏切りは存在しないのに、誤って裏切りと判断して処罰を実行してしまったり、あるいは逆のケースも起こったりする。そのようなことは、判断の性格性に欠け、処罰の効果も低下する。

 そこで妥協案としてしばしば使われるのは、基準価格という制度の仕組みである。もし、価格が基準価格より下がれば、裏切りが起きたと認定し、処罰を実行するというものである。しかし、現実には、まだ他にも複雑さを増す要素がある。この種のケースには、しばしば選択に多くの次元が存在し、次元によって裏切りを発見できる可能性が異なる。と言こともその一つである。

 例えば、起業は価格以外にも、品質やアフターサービスやその他いろいろの点で競争している。価格は、内々の割引や特別なタイアップ価格等もあるだろうが、比較的外から観察しやすい。しかし、品質を見極めるのが難しく、画一的な取り決めに適していない。したがって、カルテルで高価格を強制することができても、競争は新たな分野に進み、とどまるところを知らないというのが通例である。

 このことは、実際航空業に起こった。ディレギュレーションの前、航空運賃は一律であり、新規参入は厳しく制限されていた。民間航空協議会(日本でいえば旧運輸省)によってカルテルが実施されているようなものであった。しかし、航空会社はこのカルテルの枠を超えて、競争を開始した。価格を下げることはできないので、競争の中心は、食事を充実したり、美人のスチュワーデスを乗せたりといったサービス面に置かれた。

 法律により、客室乗務員に男性を採用したり、スチュワーデスは30歳を過ぎても引き続き採用しなければならなくなった時、競争はノンストップ便の運航や座席の幅、足下の空間といったものにうつっていった。このような例は、貿易問題にも見ることができる。関税は最も目に見えやすい貿易制限のための手段であり、度重なるGATT(貿易と関税に関する一般協定)交渉の結果、先進国間での関税等は大幅に引き下げられた。

 しかし、各国には、輸入を制限したい事情がある。それゆえ貿易制限手段は、関税から、より見えにくい手段、例えば、自主輸出規制、通関手続き、国内使用規格、行政上の措置、数量割り当て等へシフトしていった。これらの例に共通していえることは、取り決めの対象はより透明度の高いものに重きを置き、その実、競争の対象はより透明度の低いものに移行する、ということである。

 この現象は、不透明増加の原則と呼ばれる。はっきりとは認識しにくいかもしれないが、取り決めによってやはり損害は生じているのである。例えば、1981年に日本の対米自動車輸出に数量規制が実施されたとき、日本車とアメリカ車の販売価格はともに上昇し、また、市場から日本車の低価格モデルは姿を消した。不透明競争は二重の意味で好ましくない、つまり、価格は上昇し、製品の多様性は失われる、という結果を招く。

 裏切りを発見することは、裏切りがあったことを発見することよりさらに難しい。当事者が二人しかいない場合には、正直な側は相手が裏切ったとわかる。しかし、相手に裏切りの事実を認めさせることは必ずしも簡単とはいえない。また、当事者が三人以上になれば、だれが裏切ったのかわかったとしても、本人以外はだれが裏切ったのかわからないことが多い。そうしたときには、裏切りを防止用の策は効果がなかったり、無実のものにも有罪のものにも同じような罰則を与えたりする。

 さらに、受け身の状態でいることが裏切りを意味する場合もある。そのようなケースでは、裏切りを指摘するのが難しいという状況もよくみられる。例えば、増税を行うためにリーダーシップを行使する例があったが、そこで裏切り行為を糾弾するのは容易なことではない。選択肢の中に、肯定的な行動をする(例えば増税をいいだす)選択肢があるのはわかっていても、行動しないための弁明もまた、無数にあるからである。例えば、他にもっとプライオリティの高い重要な問題があるとか、努力を結集するのに時間がかかるとかいったものが代表的な弁明であろう。