囚人のジレンマ{3.裏切り者の処罰(1)}

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 共謀を実現する方法には、裏切り者を処罰するメカニズムがつきものである。自白し、仲間を売った容疑者は、裏切り者として復習を受けるかもしれない。早く出所するのも塀の外側で待ち受けているものを考えると、あまり魅力的とはいえなくなる。警察は釈放するぞと脅して、麻薬の売人に口を割らせることもあるといわれている。これは釈放されると、その売人は秘密を喋ったとみなされることを逆手にとったものである。

 テキサスA&M大学の実験の例でも、生産量を1とする協定をだれが裏切ったかが分かれば、この学生を学期の残りの期間仲間外れにするということが考えられる。もしそうならば50セントのためにそれほどの危険をおかす学生はほとんどいないだろう。OPECの例でも1970年代にはアラブ諸国には政治的、社会的な太い絆か存在していたため、それぞれの国は孤立化を恐れて協定破りを思いとどまっていたとも解釈できる。

 これらは裏切りへの誘惑を減少させるために付け加えられる罰則の例である。一方、罰則がゲームの構造自体の中に存在している場合もある。原油生産の例を使ってこの状況を考えてみよう。次に一日当たりの利益を示す図4-5(省略)を再掲する。イランとイラクはこのゲームを毎日繰り返しているので、罰則メカニズムが機能し得る。最初はお互いに信頼し合い、一日200万バレルずつ生産して高価格維持を心掛けたとする。

 しかし、両国とも常に、裏切りへの動機を持っている。もしイラクはそのままでイランが裏切ったとすると、イランの一日当たりの利益は4600万ドルから5200万ドルに、600万ドル増える。しかし、問題はこのことをイラクが知ったとき何が起きるかである。両国の信頼関係が崩れ、共に生産量を増加させ、結果として価格は低下するしいうストーリーが最も可能性の高いものであろう。

この状態を信頼関係が維持された場合と比較すると、イランの一日当たりの利益は4600万ドルから3200万ドルへ、1400万ドル少なくなることがわかる。裏切りから得られる短期的な利益は、その後に発生するコストと比べるとあまり大きいとはいえない。例えば、イランの裏切りをイラクが知るまでに一ヵ月かかったとしよう。この間にイランは18000万ドルの余分の利益はわずか一三日間でなくなってしまう。

もちろん、時は金なり、であり、現在の利益のほうが将来の利益の減少より大切かもしれない。しかし、計算してみると、裏切りの行動が不利益であることは一目瞭然である。イラクにとっては、裏切りに出るのは更に不利だ。イラクは裏切りを行い、見つからなければ一日200万ドル余分に儲かる。しかし、ひとたび両国がともに裏切るという事態になれば、一日当たりの利益は1800万ドル減少する。

信頼関係が損なわれると大きな不利益が生じるために、協力の合意が守られるという状況も考えられる。信頼関係は様々な理由で壊れる。例えば、イラン・イラク戦争によってOPECは両国に生産量を割りてることが事実上できなくなった。カルテルを守らせるためには、協定を破ったものを処罰できることが必要である。しかし、すでに両国間で爆発物が飛び交い、衝突部隊が攻撃を繰り広げるときに、その上どのような罰則を科すことができるだろうか。戦争が終わって処罰の実効性が確保されたとき、初めてまた協力の余地も生まれる。