イラン、イラクともに400万バレル生産の絶対優位の戦略をとったとき、1日当たりの利益はそれぞれ3200万ドルと2400万ドルになる。これは決して少ない額ではないが、もし協力すれば、二ヵ国は1日当たりそれぞれ4600万ドルに4200万ドルと、さらに大きな利益を得る事ができるのである。この状態は囚人のジレンマと呼ばれる。囚人のジレンマの特徴は、それぞれが自分の利益を最大にするような絶対優位の戦略をとると、結局それが自分の利益を最小にするような戦略をとる場合より悪い結果が生じる、というところにある。
では、どうして両者は自分の利益を最小にする戦略をとらないのであろうか。ここでイラン、イラクの問題に帰ってみよう。例えば、イランが200万バレルの生産を選び自己利益最小化の戦略を実行したとしよう。ところが、イラクは依然として400万バレル生産したほうがより大きな利益を上げられるのである。もしイランが200万バレル生産、イラクが400万バレル生産ということになれば、これはイランにとっては最悪、イラクにとっては最善の結果となる。したがってイラクが協力せずに400万バレル生産するなら、自分利益を犠牲にして生産量を200万バレルに抑えるとイランは馬鹿を見る、ということになる。
カルテルの問題は、裏切りを行って相手を犠牲にすると利益が得られるという状況下で、どうやってその誘惑をコントロールし、両者を合わせると最大の利益を生むような低生産量・高価格戦略を成立させることができるか、ということにある。イランとイラクの立場は、KGBの囚人の立場に似ている。KGBの囚人にとっては、自白するのが絶対優位の戦略であった。もし相手が否認するならこちらは自白すると有利になるし、相手が自白するならこちらも自白しないと損をする。かくして相手がどうでようと必ずもう片方は自白することが運命づけられていた。
そして両方が自白し、結局は両者とも過酷な刑に処せられるのである。そこでも、自分の利益を追求することによって不利な結果を招くという現象がみられる。両方が否認したほうが最終的な結果は両者にとって良くなるのであり、自分にとって有利な選択がそれぞれの側に存在するとき、どうやって協力を達成するかということが問題になる。同様の問題はビジネス界でも見られ、さらにビジネスを学ぶ学生の間にも見られる。
テキサスA&M大学のある教授は、自分のクラスの中で囚人のジレンマのゲームをやってみた。クラスの27人の学生は、それぞれ架空の会社のオーナーとなり、生産量を1として高い価格を維持するか、あるいは生産量を2として他社を犠牲にして利益をとるかの選択を与えられた。生産量1を選んだ学生の数により、図4-2の表にしたがって支払われるとする。
図4-2
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"1"を書いた学生の数 |
"1"を書いた学生への支払額(一人当たり) |
"2"を書いた学生への支払額(一人当たり) |
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0 |
- |
0.50ドル |
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1 |
0.04ドル |
0.54ドル |
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2 |
0.84ドル |
0.58ドル |
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3 |
0.12ドル |
0.62ドル |
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... |
... |
... |
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25 |
1.00ドル |
1.50ドル |
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26 |
1.04ドル |
1.54ドル |
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27 |
1.08ドル |
- |
この表はグラフ(図4-3:省略)にするとよりわかりやすい。このゲームは計略が仕掛けられており、生産量2を選んだ学生は常に生産量1を選んだ学生より50%多くもらえ、一方、生産量2を選ぶ学生の数が増えればふえるほど、学生全体で得られる金額の合計は減少するようになっている。最初に、27人の学生全員が生産量1を選ぶ状態から始めよう。この場合、各人は1.08ドルを手に入れることになる。さて、次に一人の学生が生産量を2に切り換えると、生産量1を選んだ26人の学生はそれぞれ1.04ドルを手にし(最初の状態よ4セントすくない)、生産量を2に切り換える他その一人は1.54ドル手にすることになる(最初の状態より46セント多い)。
同様にどの、状態から始めても、生産量2に切り換えるとその学生は46セント得をする。生産量2を選ぶことは、絶対優位の戦略なのである。しかしこの戦略をとると、他の26人の学生の取り分は4セトずつ引き下げられる。したがってクラス全体では58セントの損となる。全学生が、それぞれ自分の利益を最大にする戦略を実行すると、結局各人は50セントずつ受け取ることになり、一方、学生が共謀することができ、自分の利益を最小にする戦略を実行すると、結局、各人は50セントずつ受け取ることになり、一方、学生が共謀することができ、自分の利益を最小にする戦略を実行できれば、各人は1.08ドルずつ受け取ることができる。実際には学生はどのように行動するであろうか。