教育テレビなどの公共サービスは、個人の寄付金等により財政が賄われる場合がある。公共サービスによる利益は皆が得るが、寄付の方はする人もいれば、しないで利益だけを得る人もいる。したがって、その両者の間の関係は一種の交渉問題と考えられる。交渉とは寄付金の募集との間の類似性に着目すると、効率的な募金キャンペーンを立案することができる。
賃金交渉の問題では、労働者と使用者はストが起きたときに発生する損害を恐れて妥協しようとする。妥協へのインセンティブは寄付へのインセンティブに似ている。公共テレビの募金キャンペーンでも、寄付がなければ損害が発生するかもしれないことを視聴者にアピールできる。テレビ局は放送を中止すると脅すことができるし、差し迫った状況では、募金が目標額に達するまで予定の番組を放送しないことも起こりえよう。つまり番組が人質で、身代金は募金目標額ということになる。
労働者ができるだけ高い賃金を望むのと同様、放送局はなるべく多くの金を集めたいと望んでいる。しかし、実現可能な金額以上を要求すれば、視聴者に背を向けられてしまうかもしれない。視聴者が諦めてしまっては番組という人質も意味がなくなる。当然ながら設定している募金目標の最高レベルは、視聴者の数や番組の人気によって異なる。寄付をする人がN人いて、各人がBだけの利益を得るとき、目標額TをNB以下にすればいつでも目標額を達成できるであろう。しかし、本当にそうだろうか。
この質問に答えるために、問題を単純化して、寄付する人が二人しかいないケースを考えてみよう。募金目標額は10000ドルで、それぞれの人にとって番組の価値は7500ドルであるとする。これなら目標達成できるであろうか。二人とも、自分は7500ドルを寄付するのに、相手は2500ドルしか寄付せず5000ドル得するのでは満足しない。つまり、つまり、これは両者間の資金配分交渉問題てある。両者にとっての価値の合計額は、15000ドルで、コストの合計金額は、10000ドルのとき、5000ドルの余剰を両者はどう分けることになるだろうか。
単純化して考えるために、両者が交互に額を提示するとしよう。つまり、両者は交互に寄付額を引き上げていき、それは目標額を達成するまで続けられる。この場合、両者は少しずつ額を引き上げる戦略をとることになろう。そうすれば、自分だけが突出して多く払い、不公平な配分はなくなる。しかしこのやり方は額が少しずつ上がるのに時間を要するというコストが伴う。
番組を速く観たいと思って寄付した人々は、時間がかかることで、苛々しながら待つはめになる。番組を見ることによる利益Bは、翌日にはBP(ただし0<P<1)になってしまうとしよう。これは利息を失うのと同じようなもので、今日と明日の価値の違いは、B(1-P)であり、この利益の減少分利息の喪失を考えれば、(1-P)部分が利子率に相当する。ちなみに寄付は「寄付約束額」という形で成され、目標額が達成された場合のみ払うこととしよう。事実関係の説明は以上であるとして、このキャンペーンでいくら寄付を集められるだろうか。