ケース・スタディ{その20 拳銃よさらば}

 

 米国では家に自衛のための拳銃を持っている人が多い。英国では拳銃を持っている人はほとんどいない。この違いは、一つには文化的違いによるものであるが、戦略活用行動によっても説明できる。どちらの国でも大部分の住民は銃がいらない社会を望んでいる。しかし、強盗が銃を持っている恐れがあるなら、自分たちも銃を持たざるを得ないと考える。一方、強盗は商売道具として銃を持ちたがる。

 今、起こりうる結果をそれぞれの側にとってよい順に1、2、3、4とランクづけしてみる。住人と強盗の選好は、①{住人(銃なし)強盗(銃なし)=1:2}、②{住人(銃所持):強盗(銃なし)=2:4}、③{住人(銃なし):強盗(銃所持)=4:1}、④{住人(銃所持):強盗(銃所持)=3:3}となる。戦略活用行動が全くないのであれば、このゲームは同時進行ゲームとして分析できる。

 まず、絶対優位の戦略を探してみよう。強盗にとっては①、②よりも③、④の方が優れているので住人の選択にかかわらず銃を持つことが絶対優位の戦略である。住人は、強盗と対等になることを好むので絶対優位の戦略はない。もし強盗が銃を持たないのであれば住人も自衛のために銃は必要ない。ゲームの結果はどうなるだろうか。絶対優位の戦略がある方はその戦略を使い、ない方は敵の絶対優位の戦略に対して最善作をとる。つまり、強盗は絶対優位の戦略により銃を持ち、住人は最善の対応策としてやはり銃を持つ。

 両者が銃を持つ結果、利益は相反するもの④{3:3}の状態になる。両者の利益は相反するのであるが、合意できることが一つだけある。それは、両者とも銃を持つ状態④{3:3}になるよりは、両者とも銃を持たない状態①{1:2}になる方がよいということである。どのような戦略活用行動をとればこれが可能となるだろうか。

 

《ケース・ディスカッション》

 強盗が先に行動を選択できるとしよう。彼らは拳銃を所持しないと約束する。そうすれば交互行動ゲームとなり、住人は強盗がすでに選択を行った結果銃を持っていないとわかっているのでそれに対する最善の対応策、すなわち、銃を持たないほうを選択する。この結果は、①{1:2}となり両者にとってよりよいものとなる。実行の確約をすることは、強盗側の得になるばかりでなく、住人にとっても得なのである。

 両者の利益は、両者とも、相手の選択に重きを置くところから来る。強盗に先に意思決定を行わせることで、強盗の選択をかえさせることができた。ところが、現実には強盗は一つの組織にまとまっているわけではない。強盗全体としては自ら銃を放棄すれば利益を得られるが、個々の強盗はこの方針を破ることでさらに大きな利益をあげられる。このように囚人のジレンマが存在するため強盗たちの銃を持たないという選択は信頼性を失ってしまう。強盗は何らかの形で全体しての確約を行う必要がある。

 拳銃に対して厳しき取り締まりを行っている国では拳銃はなかなか手に入らない。だから、住人は強盗が銃を持っていないだろうと推測できる。英国の厳しい取り締まりは、強盗が銃なしで仕事をすると確約したのと同様の効果を持っている。強盗には銃を持つという選択肢はないのだから、この確約は信頼性のあるものとなる。一方、米国ではすでに拳銃が出回ってしまっているので、銃を所持しないという確約はすることができない。

 その結果、多くの住人は自衛のために銃を持ち、両者にとって好ましくない状態となっている。しかし、この論法は現実に比して単純に過ぎよう。この論理で行くと、強盗も銃の取り締まり強化を支援するべきであるということになってしまう。また、現在、銃不所持の確約は英国でさえ信頼性を保つのが難しくなっている。長引くアイルランド紛争により拳銃入手の機会が増えてきたので、強盗の拳銃を持たないしいう確約は崩れつつある。

 この問題を見直してみると、ゲームが同時進行から交互進行に移行したとき、奇妙なことが起こったことに注意してほしい。強盗は絶対優位の戦略の選択をやめたのである。つまり同時進行ゲームでは拳銃を持つことが絶対優位の戦略であったのに、交互行動ゲームになるや、所持しない方を選択するようになった。その理由は、交互行動ゲームでは彼らの選択が住人の選択に影響を与えるからである。交互行動ゲームでは、拳銃を持つことは絶対優位の戦略ではなくなってしまうということだ。