戦略的思考とは何か(2)

 

むしろ、戦略的思考の基本的法則を如何に展開させるかということを念頭に構成されている。したがって将来特定の状況にその法則を応用し正しい選択をするには、それぞれ非常に重要な点で異なっている可能性があり、一般的なやり方では誤った結果を招く恐れがある。状況に対応する指針としては、この本で触れた戦略の法則以外にも、別の考え方からくる他の法則を思いつくだろうが、そのときどきに両者を比較してそれぞれの考えの長所、短所を評価することが大切だ。

この本さえ読めばどんな問題でも解決できるというわけではない。ゲーム理論の科学はまだ発展段階で、戦略思考はわざの面影をとどめている。この本は、戦略的思考法を実行に移す手引きとなるように作られた。第1章では戦略上の問題点がどのように起こってくるかという例を示している。そこでは有効な戦略と、効果のやや劣る戦略と、明らかに下手な戦略とを紹介してみよう。

第2章以下ではこれらの例を体系的なフレームワークの中で説明していく。特に第8章からの後半の章では戦略の状況を、瀬戸際戦略、投票、誘因、交渉といったテーマに分けて取り上げ、法則の実践を見ていこう。事例には、文学やスポーツや映画などの身近な軽いものもあれば、核兵器の対決という恐ろしいものもある。前者は、ゲーム理論の考え方を小気味よく伝えるであろう。

また、一方で、後者については核の話題はあまりに恐ろしいので、合理性による分析にはふさわしくないとの考えもあるだろう。しかし、冷戦の空気が薄まり世界は平和になりつつあるという見方もある中で、軍拡競争やキューバ危機のゲーム理論的な側面を、感情面をやや離れて戦略的理論により検討してみるのもよいのではないかと思う。各章には多くの例を示してあるが、これは法則を説明するために用いているので、詳細にわたる描写は省いた。

また、各章の終わりにはビジネススクールで取り扱うような「ケース・スタディ」を設けた。ケースの中では特定の状況を与えられ、読者はその章で論じられた法則を使って、正しい戦略を見つけられるかどうか試せるようになっている。中には明確な正解がないものもあるが、それは現実の人生の姿でもある。明確な正解がない場合には問題に対処する方向性を示した。解答をよむ前に、各ゲームを真剣に考えることがコンセプトを理解する近道であるのでぜひ挑戦していただきたい。

さらに練習用として最終章に二十数問のケース・スタディと解答を乗せた。これらは、ほぼ昜から難の順に並んでいるので合わせて楽しんでいただきたい。この本を読み終えるまでには、読者は経営者あるいはスポーツ選手、政治家、親として以前より優れた戦略家になっているに違いない。最後に忠告を一つ。効果的な戦略を実行したて目標を達成しライバルに勝ってしまうと、敗れた相手からは良く思われないかもしれない。もし読者がフェアプレーを望むなら、ライバルにもこの本を薦めてはいかがであろうか。

 

 以上が、「『戦略的思考とは何か』【エール大学式ゲーム理論の発想法】:プリンストン大学教授 アビナッシュ・ディキシット、エール大学教授 バリー・ネイルハフ(菅野 隆、嶋津祐一訳)」の序章の文である。本来は、ここから読み始めるのが筋であるが、ブログの読者は、ゲーム理論の知識をすでにお持ちの方が多いと思い、あえて、「応用編」から紹介したわけですが、基本コンセプトをもう少し詳しく知りたいという意見が寄せられたので、今回、前段の章を改めて紹介することにしました。取り上げられている事例は、他の書籍でもたびたび登場するもので重複する部分もありますが、ゲーム理論の戦略的思考の有用性を理解するためには、無駄にはならないと考えています。