ケース・スタディ{その7 衰退市場から撤退するタイミング(2)ケース・ディスカッション}

 

 この問題で重要なのは、いくら儲かるかではなくどれだけの期間儲けられるかである。二社併存状態における純利益がマイナスになると、黒字でいられる期間が短い会社は撤退を余儀なくされる。前に示唆したように、もしデビッドが1989年の第3四半期直前まで生産を続けるとして考える。その時点ではゴリアテが撤退するのが19894四半期終了直後という最悪のケースでも、デビッドの損失は2.25ドルにとどまる。

1990年になれば、たとえ独占になっても儲からないゴリアテは確実に撤退するので、デビッドは一年間で2.5ドルの利益を期待できる。だから1989年第3四半期直前の時点では、デビッドは生産の継続を選択するはずである。さて、ここで逆戻り推量に入ろう。デビッドが1989年、第3四半期直前の時点で生産継続が確実(撤退は絶対劣位の戦略)であれば、ゴリアテは、1989年第3四半期以降は損を出すことは確実となる。

だからゴリアテはその時点では撤退する方がよい。となれば、デビッドの利益は1990年に独占企業として2.5ドル、さらに1989年の第34四半期にも独占企業として2.75ドルを期待できる。合計の5.25ドルは、1989年第3四半期直前までの二社併存による損失額(1.5ドル)を上回るので、デビッドは19911月までは撤退すべきでない。デビッドが市場にとどまることを前提にすれば、ゴリアテは、両社へ依存時には利益が上がらなくなる1988年第2四半期終了時で撤退しなければならない。

ゴリアテは遅くとも1990年1月初めには必ず撤退せざるを得ないのであり、デビッドほど長期間市場にとどまることはできない。ゴリアテが1990年1月初めまでに撤退するのが確実であることで、デビッドは市場にとどまる選択ができる。その結果として、ゴリアテはさらに遡って二社併存が採算にのらなくなる1988年7月初めに撤退せざるを得なくなる。

衰退産業においては、大企業が先に撤退することが多い理由の一つが、この例によって示されている。英国市場の衰退についての専門家であるチャールズ・ベイデン・フラーによると、1975年から81年にかけて英国の鉄鋼の需要が42%下落したとき、二大企業であるF・H・ロイドとウェイアー・グループは、「われわれは、合理化の矢面に立たされていると感じた。1975年には二社で鉄鋼市場の41%を占めていたが、1975年から81年の間に廃棄された生産設備の63%は二社のもので、二社合計のシェアは24%にまで減少した」と語ったそうである。

衰退産業からの撤退と柔道に関しては、大きいことが得とは限らないようだ。