ケース・スタディ{その7 衰退市場から撤退するタイミング(1)}

 

 経営者は一般に薔薇色の未来を描くものだ。市場は拡大し、技術は進歩し、情報網は整備される。しかし成長がある以上は衰退もある。1970年代、米国の工業生産のうち10%以上は実質生産高が縮小しつつある産業が占めていた。このような衰退産業には鉄鋼、タイヤ、ゴムといった基礎産業から繊維、化学さらにはベビーフード、真空管等が含まれている。衰退の原因は様々で、技術革新(真空管は新技術に代替)、外国の競争力向上(鉄鋼)あるいは法規制(科学)、出生率の低下(ベビーフード)等がある。

 衰退産業にあっては、産業全体の採算を確保するためには、だれかが市場から撤退しなければならない。各社は、ライバル会社がこの負担を負うことにより、自社が市場の残りを得ることを期待するであろう。このケースでは、衰退産業での生き残りには会社の規模が関係するという問題を考えてみよう。衰退しつつあるパチンコ(いしはじき玩具)産業において、デビットとゴリアテは激しい競争下にあった。デビッドのほうが規模が小さく、四半期に一つパチンコを作る。ゴリアテはデビッドの二倍の規模で四半期当たり二つのパチンコを作る。

 両社は生産量を調整することはできず、市場にとどまるなら一定量の生産を続けるし、一旦撤退したら、復帰はできないとする。この戦いは、タイム対ニューズウィークの競争に似たところがある。各四半期で両社は、ライバル社の選択を知らない状態で、生産を続けるか撤退するかを決めなければならない。そして両社は、後で相手の選択を知り、ともに生産続行の場合には、四半期後に再び同じ選択を迫られる。

 1988年の第1四半期には、もしデビッドが独占であれば、パチンコ一個売るごとにより三ドルの純利益を得られる。デビッドが撤退したてゴリアテの独占となれば、ゴリアテのほうが生産量が多いため単価は安くなるので、パチンコ一個あたりの純利益は二ドルとなる(もちろん二ドルの利益を生む製品が二個あるゴリアテの方が、デビッドの三ドル一個より利益が多い)。もしデビッドとゴリアテがともに生産を続けるなら、二社へ依存の状態となり一個たりの純利益は0.5ドルとなる。

 1988年以降、四半期経過するごとに一個当たりの純利益が0.125ドル下がっていくとする。撤退の検討は、二社寡占状態ではまったく利益が出なくなる1988年第3四半期から始まる。1990年の第1四半期にはゴリアテは一社独占となっても利益が上げられない。その一年後にはデビッドも全く利益を上げる術はなくなる。1988年から91年の12四半期でパチンコ産業は消滅する。

 しかしいつ会社は撤退するか。どちらがいつ最初に撤退し始めるか。この問題は、絶対劣位の戦略を消去することにより解決できる。ゴリアテにとっては1990年第1四半期以降に生産することは、デビッドの選択に関わらず損をするので絶対劣位の戦略である。それでは若干遡って、1989年第3四半期にゴリアテが生産を続けているとして、デビットはどういう戦略をとるべきかを考えるところから始めるとよい。