ケース・スタディ{その19 タクシーの営業認可証}

 

 1987年、ニューヨークのエド・コッチ市長は、マンハッタンにおける営業許可のあるタクシーの数を増やすことに成功した。それまでの50年間にマンハッタンの人口は300万人増えたが、タクシーの数は100台しか増えていなかった。タクシー不足のあらわれは、タクシーの営業許可証の価格が1987年には公開市場価格で12500ドルにまであがったことにも見ることができる。

 タクシー代は十二時間二交代制で賃貸されており、その価格は一交代分で約60ドル(年間約4万5000ドル)であった。もし市が新しい営業認可証100枚をオークションで売却すれば、1250万ドルの収入が入るであろう。一方、買い手の側は、市が今回で味をしめて来年もまた100枚認可証を売却することにより、認可証の価値が下がることを心配する。市側が認可証の発行枚数をどんどん増やすようなことはしないと約束しない限りは、だれもあまり高い価格で買おうとはしないだろう。

 コッチ市長は、タクシーの数を増やして市の収入を増加させたいと考え、コンサルタント相談した。市長は新しい営業認可証を発行し続け、既存の認可証の価値を下げるようなことはしないと、自分や将来の市当局が約束できるような方法を探していた。タクシー審議会は統制が取れておらず、また、政治家の約束は信用されていない。さて、コンサルタントはどうアドバイスすべきか。

 

《ケース・ディスカッション》

 営業認可証を売らずに賃貸すればよい。そうすれば将来の価値が、現在の価値に影響を与える心配はなくなる。また、市長は賃貸認可証の数を制限するインセンティブが生まれる。賃貸数を増やし過ぎると賃借料が下がり、全体からの賃貸料収入が減ってしまう恐れがあるからだ。以上のことは小さなスティプに分解して実行の確約を行う方法の応用である。

ここでいう各スティプは認可証の数ではなく、認可証有効期間の長さである。一週間とか一年間とかであれば人々は市長を信頼するであろう。制度を変えるために新法案を作るには時間がかかるからである。さて、その場合、最大のリスクに晒されるのは、認可証の一年間の価値である。まず今年の認可証を売り、つぎには翌年の認可証、さらには翌々年以降の認可権をまとめて作った永久認可証を売る、という具合に別々に売るよりも、認可証を一度に売ることにより市長は信頼性を得ることができる。認可証を賃貸することはこうすることに他ならない。