業界で圧倒的な力を持つ企業は、新規参入を防ぐことによって利益を得る。新規参入を防いだ後に、価格を独占状態のレベルに引き上げる。独占は社会的に害悪であるから、経済当局は、参入障壁の戦略をとる会社をみつけ訴追しようとする。1945年、アルミ塊市場の90%を手中にしている米国アルミ二ウム会社(アルコア)は、有罪判決を受けた。
上級裁判所の控訴陪審員は、アルコアが需要を上回る精錬設備を常に設置していることを指摘した。ラーンド・ハンド判事の意見は次のとおりである。「アルコア社が常にアルミ需要の増加を見込んで、供給体制を整えておくことはやむを得ないとはいえない。供給能力を何倍にもしておく必要はないはずだ。同社は他社の参入を妨害する意図はないとしているが、われわれは、新規参入を検討している企業に対して、その業界の大手企業が、すでに余剰新鋭設備を有していることを見せつけることほど有効な参入障壁はないと考える。
このケースは、独占禁止法の学者や経済学者によって詳細に議論されている。ここではこのケースの基本的概念について考えてみたい。余剰設備を持つことがなぜ参入妨害となるのだろう。この戦略は他の参入妨害戦略とどう違うのか。どういう状況下ではこの戦略は失敗するだろうか。
すでに市場にいる企業は、新規参入を検討している企業に、この業界に参入しても利益が上がらないと思わせたい。参入すれば価格はコストをカバーできないほど低くなると説得したのである。もちろん既存の企業は参入企業に対して容赦なく価格競争に突入すると脅すこともできる。しかし、参入企業はこの脅迫を額面どおりに受け取るだろうか。価格競争は既存の企業にとってもコストのかかることなのである。
しかし、現在の生産に必要な量以上の設備能力を設置すると、既存の企業の脅迫に信憑性が出てくる。このような設備がいったん設置されれば、生産量を迅速にかつ小さいコストで増加できる。設備投資はすでに済んでいるから、あとは設備に人を配し、原材料を得るだけである。容易、安価に生産でき、それゆえ価格戦争の信憑性は高まるのである。このような戦略は論理的には成立するが、実際にもうまく機能するだろうか。
少なくとも二つの問題点を考えなくてはならない。第一に、この業界にすでに多くの企業が存在するときには、参入を妨害することによる利益は多くの企業間で分けられることになる。利益のほんの一部しか得られないのに、能力増強の費用を負担しようという企業はないであろう。これは典型的な囚人のジレンマである。もし一社が圧倒的なシェアを持っているなら、このような負担を厭わないかもしれない。
そうでない場合には、会社間で余剰施設の建設のために共謀しなければならないが、それでは当局の目から逃れるのは難しいであろう。アルコアのケースでは、同社がアルミ塊市場の90%のシェアを握っているから、このジレンマは重要な問題とはならない。しかし、二番目の問題として、アルミ塊市場を考えるだけでよいだろうか。アルミ塊の生産者が一社だけとしても、スクラップからの再生産者が競争相手となる可能性がある。
またアルコア自身の将来の生産も競争相手となりうる。というのも、多くのアルミニウム製品は耐久性があるので、もしアルコアが将来、市場により多くのアルミニウムを送り出せば、アルミニウムの価格は下落するだろうからだ。したがって、同社が、将来的にも生産制限をするとユーザーに保証することができないと、ユーザーは将来のアルミの価値下落を恐れ、現在のアルミ価格も下がることになる。アルコアは、ありとあらゆるアルミ二ウム製品を市場として考える必要がある。