瀬戸際戦略{その2 危険のメカニズム(2)}

 

 そのような手段の中でのコイン投げやサイコロは、本当にその後の出来事を決める役割を果たす。これはサイコロの目に応じて自動的に機能するコンピュータ等を想起させるが、現実味はあまり大きいとはいえない。しかし、一般化された恐怖を実行の確約の手段として使える状況は多い。ケネディは、地球破滅をもたらす危険の確率を正確に決める必要はない。

 軍事関係者は「戦争の霧」という言い方をすることがある。これは、両陣営とも情報が断絶されていて、個々の恐怖や勇気、不確実性に行動が支配されている状況である。つまり、すべての物をコントロール下に置くには複雑な要因が多過ぎる場合だ。この状況は危険を作り出す目的に適っている。キューバのミサイル危機自体も、実はこの範疇に属している。

 例えば、ケネディは一度海上封鎖を実行したとき、海軍の行動をコントロールするのは一度海上封鎖を実行したとき、海軍の行動をコントロールするのは非常に難しいことを発見した。その端的な例として、ケネディはフルシチョフに時間を与えるため、封鎖の実施海域をキューバの沖の500マイルの地点から800マイル地点に移そうとした。しかし、ソ連に用船されていたレバノン船籍の貨物船マキュラが停止された位置から証拠として示されているものは、海上封鎖の地点はなんら変更されなかった、ということである。

 国防長官マクナマラにしても、海軍指導官アンダーソンに海上封鎖に関する海軍行動準則を修正するよう説得すことはできなかった。グラハム・アリソンの『決定の本質』によると、マクナマラはアンダーソンに次のように語った。「一般的なルールでは、海上封鎖は戦時行動の一つであり、捜索を拒んだソビエト船は撃沈される危険を冒すことになる。しかし、これは政治的な意図を持った軍事行動だ。フルシチョフをなんとかして報復に駆り立てるのではなく、引き下がるように促さなくてはならない」。

 アリソンは階段の様子をさらに続けて描写している。「アンダーソンがこの論法では動かないのを見てとるや、マクナマラは細かい質問攻めに出た。だれが最初の補足を行うのか、ロシア語を話す士官は乗船しているのか、潜水艦の取り扱いはどうなっているのか、ソビエトの船の船長が積み荷についての質問にこたえるのを拒否したらどうするのか、そのとき、アンダーソンは"海軍規律集"を取り上げると、それをマクナマラの顔の方に振りかざしながら叫んだ。"この中にみんな書いてある"。マクナマラもひるまず答えた。"ジョン・ポール・ジョーンズがしたようなことはどうでもいい。今、何をするつもりなのかを知りたいのだ。"国防長官殿、貴方のおつきの方がそれぞれの職場にお引き取り下されば、後は海軍が封鎖をおこないますから"」。

 海上封鎖に関する海軍の行動準則は、ケネディが欲しているものよりずっと大きな危険を生んでいる恐れがあった。キューバ・ミサイル危機が二人間ゲームでなかったことを理解するのが重要になるのは、まさにここのところである。アメリカもソ連も決して一枚岩ではなかった。ケネディの決定が、独自の準則を持つグループによって実行されるということは、もはや事態がケネディの手を離れて動き出したことを示している。官僚制の固有の活動、弾みがついたものを中だする難しさ、組織の内部における目標の対立等の理由により、ケネディは中止できる保証のないプロセスを始めると脅すことができた。