瀬戸際戦略{その2 危険のメカニズム(1)}

 

どのようにしたら危険の可能性のある脅しをつくり出すことができるのだろうか。行動をミックさせる戦略の中で、いくつかの選択肢の中から無作為にある一つの方法を考えてみよう。例えば、キューバ・ミサイル危機の際、ケネディが脅しに使うためには、六分の一の確率で戦争を起こすようにするのが最高だと仮定しよう。そのとき、ケネディはフルシチョフに「もし、ミサイルが月曜日までにキューバから取り除かれなければ、サイコロを振り、六の目が出たらソ連をミサイル攻撃する」と伝えるかもしれない。

しかし、このストーリーが描き出す恐怖とは裏腹に、この脅しは機能しない。というのも、もしフルシチョフが応じず、ケネディがサイコロを振り、六の目が出たとしても、実際の決定は依然としてケネディの掌中にあるからだ。ケネディは地球破滅の前に「もう一回サイコロを振り、今度は確率を三分の二にして、いよいよ本当に攻撃するかどうか決めるぞ」とフルシチョフを再度脅してみるという、強烈な誘惑にかられる。フルシチョフはケネディのこの心理を知っていて、また、ケネディが自分でもこのことをわかっていると知っている。したがって、サイコロを使うこの脅しは信頼性がない。

さて、明確な区分を与えるかわりに、境界のあいまいな滑り落ちやすい斜面を脅しの手法に用いると、ケネディは自分ですらどこまでが安全なのかわからなくなる。その場合には、サイコロのかわりに核ロシアンルーレットを行うようなものである。あるナンバー(目)がとてつもない悲劇を引き起こす。しかしどれがそのナンバー(目)なのかわからない。もしそのナンバーがでてしまったら、心変わりしてやり直すということはもはや不可能だ。

相手が理性的ならばだれも核戦争の一線を踏み越えようとはしないだろう。しかし、誤りによって滑り落ちやすい斜面を落ちてしまうことは可能だ。瀬戸際戦略は少しだけ操作不能の状況をつくり出し、意図的に明確な境界をぼかすことで得られる。瀬戸際戦略の危険な可能性はミックス戦略での偶然とは根本的に異なる。テニスのサーブにおけるフォアハンド狙いとバックハンド狙い最適の比率が5050のとき、あるサーブの前にコイン投げを行い、もし表が出たとしても、それについて喜んだり悲しんだりする理由はない。

表でも裏でも(フォアハンド狙いでもバックハンド狙いでも)、どちらでも構わないからだ。重要なのは、個々の行動が予測できないようにすることと、行動選択の正しい比率を実現することである。一方、瀬戸際戦略ではあえて危険な可能性をつくり出す賭けだが、もし、当たりくじを引いてしまった場合、脅して宣言した行動を実行するのはやはり苦痛を伴う。相手に脅して宣言した行動が実行されると納得させるためには、また違う仕掛けが必要とされるだろう。

 最も普通の方法は、実際の行動を自分のコントロールの外に置くことである。「もし従わないなら、これこれのことを行う可能性がある」というのではなく、「もし従わないなら、その時に至ってわれわれ両者がどれほど後悔しようとも、これこれのことが起きてしまう可能性がある」というものだ。かくして、瀬戸際戦略に信頼性を与えるためには実行を確約する手段が必要である。