フルシチョフはこのことを知っているので、最終兵器の発動をセットしたというような脅しを信じず、結局、脅しは役に立たないということになる。ソ連が月曜日までにキューバからミサイルを撤去しなければ、モスクワが自動的に攻撃されることになって、それをだれも止めることができないとケネディが主張したとしても、フルシチョフは、実はケネディが緊急停止ボタンを持っていると確信しているに違いない。
戦争が確実におこるという脅しには真実味がなくても、戦争が起こる危険や可能性があるという脅しなら信憑性があるといえる。もしフルシチョフが譲らなければ、ミサイルがモスクワに発射される可能性が(確実ではなく)あるというのはどうだろうか。この不確実性により脅しの大きさは低下するが、逆に大きさが縮小することで、脅しはアメリカにとってより扱いやすいものとなり、したがってソ連にはより信憑性のあるものとなる。
これは信頼性を増す方法、すなわち、行動を小さなステップに分解するという手法にも関連している。そこでの基本的な考え方は、ある一つの大きな約束をいくつかの小さな約束に分けるというものである。例えば、ある人が何か貴重な情報を持っていて、それを1000ドルで売ろうとするとき、1000ドルを支払うという約束と引き換えに、情報を全部一度に渡すのをやめた方がよ良いだろう。むしろ、何回かに支払いを分け、支払われた額に応じて少しずつ情報を渡すようにするのが良いと思われる。
似たような原則は脅しにも当てはまる。その場合には、スティプは危険の度合いを意味する。アメリカとソ連の脅しの程度がエスカレートし、ステップが増すほど、戦争の危険は高まる。一方、両国が脅しの規模を下げるほど、戦争の危険は少なくなっていく。両方の側で、どの程度ステップを進ませるか、あるいは後退させるかを計算することになる。もし、ケネディがフルシチョフよりもステップを進ませることができれば、ケネディの瀬戸際戦略が勝利する。
ケネディは、即時に全面核攻撃するという脅しを信用させることはできなくても、対決の構えを見せ、核攻撃の可能性のあることを信じさせることはできる。例えば、ミサイルをキューバから除去するため、六分の一の確率で核戦争を引き起こすような可能性を脅しとして用いることが考えられる。その際、フルシチョフは、もはやケネディの脅しが実態ないものと結論づけることはできなくなる。
したがって、可能性が存在するとソ連はミサイル撤去を促され、このような可能性を導入することはケネディの利益にかなう。もし、フルシチョフが可能性の度合いが高すぎると判断すれば、瀬戸際戦略は目的を達成する。ケネディは、十分な効果があり、かつ信用するに足る範囲の大きさの脅しを選ぶ必要があるだろう。さて、ここでは、まだどのような手段により、戦争が起こるのかは確実ではないが可能性があるという脅しを使うことができるのかを問う必要が残されている。勾配を強めてゆく滑り落ちやすい斜面という概念を分析してみよう。