ソ連がキューバからミサイルを取り去ることをアメリカが望んでするとしたとき、どうしてケネディは、ミサイルを撤去しなければモスクワを殲殺すると脅さなかったのだろうか。ゲーム理論の用語でいえば、これは強要する脅しである。強要する脅しのためには、要求する事項の内容(ミサイルをソ連に引き上げる、あるいはハバナ港の船に船積みする等)と履行の期日を特定しなければならない。
このような脅しの問題は、脅しがフルシチョフや他の人物に本気にされ、信じられるものではない、というところにある。脅しとして使われている行動が本当に実行されれば、世界的な核戦争が勃発することは必至で、信じるにはあまりに大袈裟過ぎるだろう。もしミサイルが期日までに撤去されなければ、ケネディは、世界を核戦争で消滅させるよりも期日をのばすことを考え、こうして締め切りの期日は日一日と遅らされていくだろう。
脅しに信頼性を与える方法は、いくつも紹介されているが、今回のような事例では、ある条件が起これば、自動的に引き金が引かれる装置を使うことが、一番効果がありそうである。このやり方は、映画『フェイル・セイフ』や『博士の異常な愛情』に出てくる。博士の異常な愛情』では、ソ連が「最終兵器自動使用装置」を備えつけた。その装置はアメリカの行動を監視し、アメリカが何かしでかし、ある特定の状況に合致すると、もはや変更不能のコンピュータ・プログラムが自動的に報復を指令するというものであった。
一方、『フェイル・セイフ』では、最終兵器自動使用の仕組みを抱えているのはアメリカ側である。これらの映画を見ると、脅しに信頼性を持たせようとして、自動化された発動装置を使うのは避けるべきであることがよくわかるであろう。ただ、理論上は、この方法によりすべてが計どおり進む。自動装置が据えつけられたということが伝わりさえすれば、脅しは信頼あるものとなる。フルシチョフはミサイルを撤去し、脅しは実行されず、すべてはうまくいく。
もし脅しが確実に成功するなら、脅し(として使われている行動)は実行されないので、脅しがどんなに大きく悲惨であっても、あるいはそれを実行することがどれほど負担になろうとも問題にはならない。しかし、現実には、絶対確実に脅しが計画どおりに機能することは断言できないのである。起こりうる誤りには二種類のものがあるだろう。一番目の誤りは、脅しが成功しないことである。フルシチョフの考えがケネディの予想と全く異なったケースを想定してみよう。
その場合には、フルシチョフは引き下がらず、最終兵器を発動させる装置が働き、地球は終わりになる。ケネディは装置を据えつけたことを後悔するだろう。二番目の誤りとして、脅しが実行すべきでないときに間違って実行させてしまうということが考えられる。ソ連が折れたにもかかわらず、情報が伝わらずに最終兵器発動の装置が働いてしまう状況である。以上のような誤りを完全になくすことはできないので、ケネディは莫大な損失をもたらすかもしれない脅しを使いたくはないであろう。