オークション{その1 オークションとは}

 

インターネット・オークションの流行で、オークションがごく身近なものに感じられるようになった人も多いのではないか。オークションは、そうとう古くからある取引の方法ではあるが、オークションの戦略的構造はかなり複雑であって、理論的に未解決の部分も多い。オークションにはいくつかの形式があるが、いずれにしても、商品の売り手にとって、最も高い値でそれを購入してくれる人を効率よく探すことが目的である。

コネや偶然を頼りに買い手を探すよりも、オークションを開いて潜在的な買い手を一堂に集め競わせることにより、その場で高値を引き出すほうが売り手にとって有利な結果を導くことが多い。1980年の夏のオリンピックはモスクワで開催された。モスクワ・オリンピックのアメリカ合衆国のテレビ放送権は8700万ドルで、アメリカ3大ネットワークの一つのABCが獲得した。1976年モントリオール大会の2500万ドル、1980年レイク・ブラジット冬季大会の1550万ドルに比べると、物価上昇やテレビの普及を考慮しても、突然の高騰と言わざるを得ない。

実は、モスクワ・オリンピックの放映権はオークションによって売却されたのである。モントリオール大会もABCが放映権を獲得したのが、そのとき他のネットワークは交渉する場に立てず、ABCは無競争で権利を獲得したのであった。オークションの先進国といえば、やはりアメリカであろう。インターネット・オークションの隆盛を迎える以前から、アメリカには小さなオークション場が相当な数があった。

身のまわりのものを持ち込んでオークションをする場所は、ある程度の大きさの街ならばかならず1軒はあるのではないだろうか。家具、洋服、食器の類から電気製品、さらによくわからないガラクタ風のモノがオークションにかけられ、取引されている。アメリカでインターネット・オークションが急速に普及したのは、アメリカがインターネットの先進国であることだけでなく、そのようなオークションの伝統があるためであろう。

競り人(オークショニア)が売り物の値段を少しずつつり上げていき、最後まで残った人が商品を競り落とすという競売形式のオークションは、最もなじみ深いオークションの形式であろう。正確な統計が取られているのかどうかは不明だが、オークションはそのような競売形式で行われることが最も多いと推測されている。アメリカの街角にある小さなオークション場でも、オークションの形式は通常競売形式である。この場合、競り人はオークション場で働く代理人である。商品が競り落とされた時には売買代金の何%かが手数料となってオークション場の収入となる。

街角オークション場では書類や食器、家具をはじめ、雑多なものがオークションにかけられ取引されている。例えば、コーヒーカップのセットなどが売り出される。競り人は、品物を取り上げ、オークション会場に集まった買い手に示す。「もともと4個セットだったのが、3つしかない、しかし見た感じはかなり良いものに見えますな。スーパーで売っているような代物じゃないよ。おや、これはウエッジ・ウッドだね、ウエッジ・ウッドのコーヒーカップのセット、4つ揃ってたらかなりの値段だよ」などと説明を加える。

ちょっと間を置いた後で、おもむろにそれではセット1ドルからスタートします、1ドルで誰かいないか、などと声をかける。すると、買い手の間でばらばらと手が上がる。これは、1ドルならば買いますよ、という意思表示である。さらにコーヒーカップ3つで1ドル(130円)ならば買いたい人がたくさんいるのも当然だろう。競り人はこれを見て、それでは5ドルでは、10ドルでは、という具合にだんだん値段をつり上げていく。すると今度は、上がる手がどんどん減っていき、2、3人になってしまう。そこで競り人は、じりじりと値段を上げ始める。「16ドル。そこの黒い髪のお姉さん、16ドルでOKですか? 17ドルはいないか?」などとやると、隅の方に腰かけていた男がちょっと体を動かす。「スーツの形が17ドルです。18ドルいませんか?18ドル」。そのとたん後ろの方から「20ドル」と声がかかったりする。20ドルが出ました。

 こうして、競り人の巧みな話術で顧客の競争心をあおり、膠着状態になったところで落札価格が28ドルで決まり、セリは終了する。こうしてめでたくコーヒーカップは競り落とされたわけだ。後日、同じコーヒーカップの新品セットが4つ揃いで34ドル99セントで売られているのを発見した落札者は愕然とする。しかし、競り人は一切関知しない。オークションは自己責任の世界なのである。