戦略的に身のまわりの問題『値引き競争』を解く{その6 差別化による価格競争回避(2)}

 

小売り不況の中でも成長を続けてきたファーストリテイリングは、2002年度にはいり急速に利益が縮小した。ユニクロを展開するファーストリテイリングの成長を支えた要素として次の3点があげられる。第一に、販売商品の数を絞り込み中国で一貫生産を行うことで生産コストを激減させたこと。第二に、販売店舗での成果主義を徹底し、販売店の労働効率性をあげたこと。第三に、フリースに代表される「ユニクロ」ブランドを作ることに成功した点である。

しかし、これらの要素は大手のスーパーにも導入可能なものであって、事実ユニクロの営業減益の背景には大手スーパーでの同種商品の廉価販売に対抗してさらなる値下げを余儀なくされたことが大きく影響していると考えられる。圧倒的な低コスト体質はいまだに健在で、ファーストリテイリングは疑いなく優良企業なのであるが、すでに市場参入済みの大手スーパーという競争相手をかかえている以上、利益を圧迫する価格競争とは無縁ではいられない。

段ボール業界の場合は微妙な例である。先述のように、段ボール業界が激しい価格競争に陥ったのは、過去の談合体質で過大な利幅が保証されたため、業界内企業が増えすぎてしまったためである。これらの企業は初期投資をすでに完了しているから、価格競争は避けがたい。ところが、段ボール製品にも新規需要の可能性が押し寄せてきていた。そのきっかけになりうるのが、「容器リサイクル法」である。

プラスチック容器や発泡スチロール容器のリサイクル態勢に比べ、紙のリサイクル態勢はすでに長い歴史をもつため、段ボール容器の廃棄はより簡単である。技術面でも変化が起こっている。段目の高さが微小であるマイクロフルート段ボールが開発され、薄型軽量かつ強度に優れた段ボール製品の作成が可能になってきた。また段ボール原紙に防水抗菌加工をもたせた製品も実用化されている。つまり、リサイクル法による潜在的需要の増大だけでなく、多種多様の用途に合わせた段ボール製品が考えられるようになっている。すなわち、これは各企業が自社製品の差別化を行うチャンスなのだ。

税金とは、経済活動をすることに対してサービス料を徴収することだから、経済活動につける価格の一種である。したがって、税金の種類や税率も価格競争の対象になりうる。アメリカのそれぞれの洲は一定の範囲内であるが、独自の徴税制度を定め税率を決めることが許されているため、例えば隣接する洲よりも税率を引き下げて人や企業を引き付けるという競争も起こる。しかし、広大なアメリカのことであるから、いくら固定資産税が安いからといって、職場から遥かに離れたところに住むわけにはいかないし、客のいないところに店を移す気にもいかない。つまり、距離や地域性が自然な差別化の手段として働くので極端な税金引き下げ競争は起こらない。

日本でも、支払わなければならない地方税の額は各自治体によって異なるため、価格競争の余地はあるものの、目だった税金引き下げ競争は発生しない。企業活動にかかる法人税は国によって異なり、日本の法人税の実効税率の高さが問題になっている。ここに価格競争の余地があるが、それが起こっていないのは地域による差別化の効果が働いているためだ。しかし、人がそろって税金の安い海外に移住することはむずかしいが、企業が税率の安い国に事業拠点を移すことはそれほどではない。したがって、少なくとも狂気的に見れば、法人税の実効税率には国際競争の余地が生じる。

差別化が価格維持に効果があるということは、すなわち製品サービスの差別化は新しいビジネスチャンスにつながるということである。差別化の糸口はいろいろなところにある。日本で安価なコーヒーのチェーン店を経営した草分けはドトール・コーヒーであるが、昨今は日本では後発のスターバックス・コーヒーに市場シェアを奪われている。日本だけでなく、ヨーロッパでもスターバックスの躍進は目覚ましい。

スターバックスの成功を支える要素はいくつか考えられるが、製品差別化という観点からいうと店内完全禁煙のポリシーが大きく貢献しているといえる。喫茶店でタバコを吸えないのは言葉の矛盾のようだがタバコを吸わない人々にとってはタバコの匂いがしないという理由だけでスターバックスに足が向く。つまり、似たようなサービスでも、禁煙にコミットすることで差別化を成しとげ、新たな客層を開拓することができるのである。