戦略的に身のまわりの問題『値引き競争』を解く{その6 差別化による価格競争回避(1)}

 

ガソリンや家電製品のように、大量に同質の製品が生み出され、それを売りさばく小売店が多数ある場合、小売店が価格競争に巻き込まれる可能性が高い。しかし、見方を変えれば、直接競合する店がなければ価格のコミットメントはしやすく、価格の維持に成功しやすいことも示唆する。極端な例は、商品を1社だけで独占的に供給している場合であるが、そこまで極端にならなくても、自社の提供する商品を競合他社のそれとは異なるように戦略的に差別化することにより、価格維持をしやすい環境を戦略的に作り出すことも可能である。

マクドナルドに端を発した値下げ競争に、すべてのファーストフードのチェーン店が巻き込まれたわけではない。天丼・天ぷらチェーンの「てんや」では、主力定番商品の天丼の価格を1989年の創業以来現在まで490円(当時)に設定している。2002年夏の季節限定メニューである「夏天丼」も690円に設定されていて、客単価は600円程度を維持している。これは天丼という商品が一般に持っている商品特性、および天ぷらにかかるコストが生み出したというよりは、「てんや」が意図的にサービス方法や店舗の内装を、競合するほかのファーストフードチェーンの商品と異なるようにしている結果と見るほうがよいであろう。

「てんや」の例で注目されるのは2点ある。第一は、自社の主力商品の商品イメージを、安くて早い天ぷらののった丼物ではなく、天ぷらの安売り店で出される丼物という形にすることに成功していることである。つまり、もし客の発想が、何か手軽に安く済ませたい、それならどんぶり物、その選択肢の一つが天丼という形になってしまうと、牛丼も天丼も    「どんぶりファーストフード」の一つとみなされてしまい、その結果天丼チェーン店は牛丼チェーン店とまともに客を奪い合うことになってしまう。

また、もっと広く考えれば、消費者が「てんや」の天丼に対してファーストフードのひとっというイメージをもってしまったら、ハンバーガーのチェーン店も競合する相手となってしまう。もしそのような構造になっていれば、「てんや」がこの価格競争に巻き込まれた可能性は高かったであろう。「てんや」のターゲットは明らかに昼食代を1円でも切り詰めようとする客層ではない。「てんや」はファーストフードの店ではなく、安い専門店、あるいは天ぷら専門のファミリーレストランといった形で、他店との差別化に成功しているのである。

第二に、競合する天丼専門チェーン店の大規模な参入がなかったことである。「てんや」の天丼というブランド性を確立してしまえば、他のファーストフード店がメニューの一つとして取り入れる天丼とは競合しにくいので怖くない。「てんや」にとっての脅威は、同様の専門チェーン店の参入であったはずだ。これに関しては、おそらく490円という価格設定が、今までのところ、大規模な新規参入をけん制する水準であったと考えられる。

潜在的な参入者にとっては、毎日の営業で発生する利益が初期投資を上回るかが重要な基準になる。天丼の利幅は他のファーストフードよりも大きいが、少なくとも、その時点においては、大きな初期投資をして大規模な参入をするためには、天丼の客層は十分大きいとはいえないのだ。牛丼チェーンのように、大規模なチェーン店がいくつも参入して初期投資を完了させてしまった後では、利幅を確保する価格へコミットするのはむずかしい。