オークション{その2 競売の戦略的構造の基本(1)}

 

コーヒーカップの落札人の失敗はどこに原因があったのだろうか。周りの雰囲気に乗せられてアツクなってしまったのがいけないといえばそれまでであるが、これをもう少し細かく考えてみよう。すると、まず第一に、カップのセットの価格を知らなかったこと、正確に言えば、カップのセットの自分にとっての価値額を知らなかったのがまずかったということになろう。こういうところに挑戦するのならば、最低でも競り落とそうとしている商品と似たものが巷でいくらで取引されているのかぐらいは勉強しておくべきである。

後述するように、インターネット・オークションでは、オークションが始まってから終わるまでの時間にかなり余裕があるので、調査はしやすいはずである。書籍を競り落とすのならば、その定価がいくらであるのか、絶版になっているのならば古書店での大体の相場くらいは押さえておきたい。ホテルや遊戯施設の割引券がオークションにかけられていることがよくあるが、これにしてもその割引券をもっていれば、自分がいくら金銭的に得をできるのかをまず調べるべきである。

最近は「定価」などあってないようなものが増えてきているから、注意が必要だ。「通常15000円のところを8000円で泊まれます」という割引券に、差し引き7000円の市場価値があると即断しては勿論いけない。通常ではないときにはいくらで泊まれるかを調べて損はない。割引券が流通しているようなホテルに限って、何も知らずに「通常料金」で泊まるのはほんの一握りの人だけであったりする。

調査ができていないような(できないような)商品のオークションには絶対に手を出してはいけない。これは戦略的考察以前の掟である。骨董品や美術品など、その商品の価値はおろかそれが本物かどうかはっきりしないようなものの場合、商品の価値額を推測することには相当の経験が必要であるから、その類のものに目がきかない人はいくら自分の戦略的思考力に自信があっても避けなければならない。

さて、少し勉強して4つそろいで34ドル99セントが新品の相場であると知っていただけでも十分ではない。次にすべきことは、その商品に自分ならばいくらまで支払う用意があるか、その最大金額を決めておくことである。つまり、仮に競争相手が全くいなかったとして、自分が出費してもよいと思う最大の金額を自問して定めておくべきである。ホテルの宿泊割引券の場合、会社で使っている旅行会社を通して予約を入れると実は1泊1万円で泊まれると判断したとしよう。

すると、通常料金の1万5000円ではなくこの1万円が基準になるから、1万円と8000円の差額の2000円が自分にとっての支払ってもよい金額の限度である。実際には割引券のやり取りのコストや予約の手間を考慮すべきで、それらを2000円から差し引いた金額が自分の支払う用意のある最大限となる。カップのセットに対して、もし20ドルまで支払ってもよいと判断したならば、あとは簡単である。

値段が20ドルまで払う気があるのならば、価格が20ドル未満であるときに脱落する理由は何もないからだ。もちろん、20ドル以下で相手が下りてくれれば、何がしかの利益を得ることになる。威勢よく魚のせりに参加している人たちも、せりに出されている魚を見て、まずそれがいくらで売れるかを考え、それならば今ここでいくらまでならはらってもよいかを考え、そうして競り売りに臨んでいるわけである。

1000円で売れると踏んでも、売れ残る可能性や、売れるまで魚を維持する細々とした費用を考えれば、1000円で競り落としても利益が上がらないから、それが900円であるとすれば、値段が900円まであがるまでは競りつづける。たまたま800円で競り落とせば、1000円儲かったなと喜ぶわけである。すると、競売形式のオークションでは、買い手が冷静に思考して行動すれば、支払う意思のある最大金額が最も高い買い手が最後まで競り続けるから、その人が落札されると予想できる。